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光紡ぐ神の旋律 ~ Melodies of Memories ~


第一章 02

 わたしが転校することになった天野宮学園は、天野宮市に存在する大規模な私立校だ。
 全国でも上位にランクインする進学校で、国公立大学への進学率が高いことでも知られている。
 校舎は三つ。普段の授業で使用するA校舎、図書室や美術室などの特別教室があるB校舎、主に文化系の部活で使用されるC校舎。それぞれの校舎は、連絡路でつながっている。
 校舎は、一般的な学校のような無機質なコンクリート造りではなく、近代的な雰囲気を醸す薄い水色を基調とした開放的な造りになっていた。
 都会から離れているため敷地は広く、周囲はのどかな田園風景に囲まれている。
 サッカー場や野球グラウンド、テニスコートやマラソンコースなどが、それぞれきっちりと整備されていた。
 このように恵まれた環境だから部活動には特に力を入れているようで、運動部、文化部ともに大会やコンクールなどでは全国レベルでの常連だという。
 文武両道の理想的な教育を行う学園――そんなことが、転校前に読んだ学園案内のパンフレットに載っていた。
 正直なところ、想像していたよりもずっといいところだった。
 わたしは、この学園を紹介してくれたあの人に感謝した。
 あの人自身も、古い知り合いからこの学園を紹介してもらったらしい。名前も顔も知らないあの人の知人に、わたしは感謝の念を送った。
 ――あっという間に、昼休みになっていた。
 いつの間にか時間が過ぎていたのは、授業が思った以上に充実していたからだと思う。
 この学園の先生たちは、授業の進め方がうまい。教科書や参考書をただなぞるだけではなく、時折ユーモアを交えながら要点を伝える。
 生徒たちもやる気はあるようで、不真面目に授業に取り組む人は、わたしが見る限りはいなかった。ここが進学校なのも納得できる。
 席からクラスを眺めると、それぞれが賑やかに行動を始めているのがわかった。
 机を並べて持参したお弁当箱を広げる人たちもいれば、何人かで連れ立ってどこかに繰り出す人たちもいる。そういえば、この学園には学食も購買部もあるとパンフレットに書いてあった。
 ……さて、と。
「綾瀬さん」
 わたしはどうしようかなと考えた矢先、不意に話しかけられた。
 話しかけられたほうに振り返ると、男女合わせて四人のクラスメイトがいた。
「綾瀬さんは、昼食どうする?」
 話しかけてきたのは、ひときわ背の高い男子だった。一八〇センチくらいはある。手足が長い上に姿勢がいいから、なおさら長身に見える。
 やわらかそうな黒髪に大きな瞳。口もとにはやさしそうな微笑がたたえられていて第一印象は抜群だ。爽やかな美男子という言葉がぴったりだった。
「……えっと、まだ決めてないけど」
「じゃあさ、みんなで学食行かない? 親睦会も兼ねてのお食事会なんてどうかな」
 やわらかくて明るい声色に好感を抱いた。
 特に断る理由は見当たらない。学園のこともよく知りたいし、むしろありがたいお誘いだった。
「うん……お願いします」
「よかった。じゃあさっそく行こうか。学食は一階だよ」
 席から立ち上がり、鞄からお財布を取り出した。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は天(あま)宮(みや)哲(てつ)郎(ろう)」
 彼は、わたしに手を差し出してきた。大きいけど男性特有の骨ばったごつごつさはない、きめ細かな綺麗な手だった。
「うん。よろしくね、天宮くん」
 手を握り返すと、天宮くんは絵になるほど華麗に微笑んだ。これなら女子を一発で撃沈できても不思議ではないと思う。
 まわりにいるクラスメイトもそれぞれ自己紹介した。
 わたしと同じで髪が長く、清楚な感じがするのが木崎絵里(きざきえり)さん。
 逆にショートヘアでボーイッシュな雰囲気なのは石川由美子(いしかわゆみこ)さん。
 スポーツ刈りで活発な印象を与えてくるのは坂井俊介(さかいしゆんすけ)くん。
 ひととおり自己紹介が済んだところで、天宮くんが切り出した。
「じゃあ行こうか」
 歩き出した天宮くんの背を追う。彼はやはり背が高い。女子としては比較的背の高いわたしと比べても、頭ひとつ分ぐらいの差がある。
 学食へ向かいながら少し話したところによると、天宮くんはこのクラスの委員長らしい。 つまり、クラス全体のまとめ役。たしかにその際だった存在感は、リーダーを名乗るのにふさわしいと感じた。
 天宮くんの背を見ながら、なんとなく思う。
 もしもわたしがふつうの女の子だったら。
 心の闇を抱えていない、ごくふつうの女の子だったら。
 頼りがいのある天宮くんに、一目で惹かれていたのかもしれない。 


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