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光紡ぐ神の旋律 ~ Melodies of Memories ~


間奏曲 ― Interlude ― 03

 山中にある孤児院。
 生い茂る緑や流れ出る清浄な湧き水。そんな大自然の恵みに囲まれた実り豊かな場所に、ひとりの少女がいた。
 五歳ほどの、あまりにも幼くて可憐な少女だった。
 ただし、少女に表情と呼べるものはうかがえない。
 仮面を張りつけたような無表情がそこにあった。
 笑うでもなく。
 怒るでもなく。
 泣くでもなく。
 哀しむでもなく。
 喜怒哀楽をどこかに置き忘れた色のない表情で、少女は木陰で膝を抱えて座っていた。虚ろな視線は空に向かっている。
 どうして自分がこんなところにいるのか、少女に自分の境遇を愁う様子はない。そもそも、少女の瞳に光は宿ってなかった。
 少女には、なにかが決定的に欠けていた。
 孤児院の子どもたちが、庭を駆けずりまわっている。
 鬼ごっこをしている子や、サッカーやキャッチボールで汗を流す子など、その姿はさまざまだった。
 おままごとをしている女の子が、少女に近づいてきた。
「ねえねえ、一緒にあそぼーよ」
 少女は、胡乱(うろん)な瞳を女の子へ向けた。ただし視線を向けるだけで、返事をする様子はない。
「……ねえ、聞いてる?」
 女の子は笑顔を向け、少女に話しかける。
 いつまで経っても、返事はなかった。
 やがて少女は、抱えた膝に顔を埋め、その無表情を隠してしまった。
 少女と女の子の奇妙な様子に気づいた、もうひとりの女の子がやってくる。
「さっちゃん、その子はいいよ。だっていつもお話ししてくれないんだもん」
「え、でも……」
「先生も『あの子はかわってるの』って言ってたよ。いいから行こうよー」
 ふたりの女の子は、やがて少女の前から離れ、子どもたちの輪の中に戻っていった。
 しばらくして、少女は顔を上げ、笑い声が絶えない子どもたちの輪の中へ視線を向けた。
 あれはなんだろう――?
 笑い合い、触れ合い、なにかを共有する感情の交差。
 目の前の現実が、少女にとっては異次元の出来事のように思えた。
 少女には理解のできない現象だった。自分を取り囲むありとあらゆる環境の「意味」が、少女には理解不能の未知のものだった。
 なにが――
 どうして――
「……ぁ……ぅ」
 自分の想いを心の中でもうまく表現することができず、少女は震えた。背筋が凍えるような寒気が襲う。
 その桃色のかわいげな頬に涙が流れても、誰にも気づいてもらえなかった。
 少女の名は、桃子といった。


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