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いま、その翼を広げて


Alive03-3

 今日のほとんどの授業で、光太が狙い撃ちされていた。
 先週の授業をほぼ寝て過ごしていた罰と言わんばかりに、先生方の格好の標的に。当然、宿題はやっていても予習復習なんかやってない光太が、答えられるわけもなく。でも正解するまで着席させないという厳しさ。
 公開処刑とはこのことか。
 そんなこんなで昼休み。
「あ~……疲れたぁ」
「今日は大活躍だったな、光太」
「うるしゃい」
「そう怒るなって。クラスのみんな、おまえに感謝してるんだぞ」
「なんで?」
「だって、おまえが狙い撃ちされてたせいで、みんな当てられずに済んだから。なあ、真奈海」
「うん。助かったよ、川嶋」 
「ふっ、俺の尊い犠牲のおかげで、みんな笑っていられるわけか。この愚民どもめ。俺という英雄の名を、生涯忘れるなよ――」
「うわー、うざいわー。当てられてもなかなか正解できなかったやつが言う台詞かねぇ」
「厚顔無恥ってこういうことだな。恥ずかしい」
「上げて落とすのやめないっ!?」
「そんなことより、昼休みだよ! お昼ごはん! あたし、おなか空いたぁー」
「……あれ、弁当は?」
 真奈海はいつも弁当を持参している。が、今日は持ってきてないようだった。
「いやー、それがさ、今朝妹が熱出しちゃって。看病してたらお弁当作ってる時間なかったのよ」
「あ、だから今朝はちょっと遅かったのね。光太のほうが早く登校してきたのはそのせいか……今日は学食か購買だな」
「うーん……久しぶりに学食がいいかなぁ」
「それなら早く行ったほうがいいんじゃないか? 混むだろ」
「そうだね。凜たちは?」
「俺も光太も弁当だし……惺とセイラはどうする?」
「学食」
 と、惺。
「あれ? 惺も弁当持参組だよな」
 よく考えたら、俺たちはみんな弁当持参組だった。だから昼休みはほとんど教室で過ごしている。
「昨日誰かさんからメールがあってな。『明日から一週間、一緒に学食で食事だ。異議は認めない』って」
 その誰かさんを俺たちは見つめた。
「む。なぜ、わたしだとわかった?」
「いや、そんなこと言い出すのセイラしかいないし」
「そうか。では学食へ向かおう」
「セイラ、今日は購買じゃないんだ?」
 セイラは転校初日から、購買部で買ってきた弁当や総菜をこの教室で食べていた。
「ああ。先週はずっと購買部一本だったからな。今週は趣向を変えて学食とやらに挑戦してみたい」
「まあ、それもいいんじゃないかなー。あたし、女子がなんの躊躇もなくカップ麺食べてるの、見てて気が気じゃなかったし」
 ある日の昼休み、「これがわたしの昼食だ」と言って、お湯の入ったカップ麺とカップ焼きそばを持ってきたときは、男子はともかく、クラスの女子はぽかんとした表情で見つめていた。
「おかしいか?」
「おかしいっていうか……カップ麺って、なぜか男子の食べ物っていうイメージがあってね。特に運動部の男子が、部活後にがつがつ食べてる印象が強くてさ。少なくともこのクラスで、カップ麺を堂々と食べてる女子はセイラしか知らないよ」
「そうなのか……日本人は変わったところを気にするのだな」
「いやぁ、あたしもカップ麺好きだけどさ、さすがに昼休みにみんなの前では食べられないわ」
「あらあら、豊崎さんって意外に乙女なのね」
 と、言わなくてもいいことを言ってしまう光太。
「川嶋、意外でもなんでもなく、あたしは生まれたときから乙女だよん」
 その笑顔の裏に潜むのは、「それ以上なにか言ったら容赦しないからね」という無言の圧力。
「よし、話がまとまったところで、全員、学食へ向けて出発だ!」
「え、俺たちも行くの?」 
「当然だろ、なにか問題が?」
「でも、俺と光太は弁当だしなぁ」
 学食のテーブルで弁当や購買で買ったものを食べること自体は、別に禁止されているわけじゃない。けど学食のテーブルには、学食で注文した人が優先という暗黙のルールがある。弁当持参組だけでテーブルを囲んでいたら、なにも言われないけど白い目で見られるそうだ。学園の敷地は広いんだからよそで食えよ、という意味合いの視線で。
「ねえねえ、あたしと真城っちとセイラが学食なら、凜と川嶋が弁当でも大丈夫じゃない? 割合的に」
「……まあ、そうかな」
 五分の三が学食なら、なんとか誤魔化せるか。
「おい、みんななにをやっているんだ。早く行くぞ!」
 いつの間にか教室の入り口まで移動していたセイラが、大声で叫ぶ。
「ま、たまにはいいか」


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