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いま、その翼を広げて


Brave03-5

 演習場をほとんどすべて見渡せる待合室。
 窓際の手すりに寄りかかり、消火機材を積んだ装甲車が数台、例の倉庫に向かって走っていくのを眺めていた。倉庫はここからだと物陰になって見えないが、遠くでひと筋の黒煙が上がっているのが見える。
「俺としたことが、しくじったな……引き分けだった場合どうするか決めてねぇ」
 ソファにふんぞり返って、悔しそうに頭をかくレイジ。
「残念だったな」
「ちっ……おまえ、わざと引き分け狙ったな?」
「さあ」
「謙遜しやがって。おまえのことだから、あの場で俺に勝つ方法なんて一ダースも思いつくんじゃないか?」
「馬鹿を言うな。いくらわたしでも、おまえを相手にするなら、そう簡単にはいかないことくらいわかっている。わたしは決して自分を過大評価しないし、おまえを過小評価することもない」
「……へん。どうだか。だいたい、おまえは星術を使ってねえ」
「あれはほとんどチートだからな。ここぞというとき以外使わない」
 そのとき、出入り口の自動ドアが開き、白衣を身にまとった神経質そうな男が姿を現した。丸眼鏡の奥の瞳は、怒気の炎で彩られている。
「雨龍捜査官! 訓練で実弾を使うとは何事ですか!?」
「そりゃあれだ。その場の流れってやつ」
「そんな簡単に済む話ですか! 始末書ものですよ!」
「そうか。悪いな栗田。俺はデスクワークなんてできないし、やらない主義なんだ。始末書なんか、適当に書いておいてくれ」
「そんな無茶なっ!?」
 栗田の体がよろける。
 彼の鋭い視線がわたしに向いた。
「アルテイシア捜査官、あなたもあなたです! 星装銃の出力を規定ぎりぎりまで上げて! 事の重大さはわかっていらっしゃるんでしょうね!? もちろん柊室長に報告しますよ!」
「好きにしてくれ」
「……っ。あ、そうだ! だ、誰が勤務中にマ、マスターベーションなんか!」
「なんだ、あの通信聞いていたのか」
「当たり前です! 雨龍捜査官に言われて、なにがあっても口を出すなと……こんなことになるなら……」
 ぶつぶつと愚痴と怨嗟をつぶやく栗田。手で胃のあたりを押さえている。彼がまだ三十代なのにもかかわらず、白髪が交じっている理由がなんとなくわかった。
 栗田はこの演習場の開発部に所属している研究者だ。シミュレーターのシステム構築で、重要なポストに就いている。
「……ところでおふたりとも、バイザーはどうしました?」
「それなら倉庫の中だな」
「はぁ!?」
「レイジが現れてもう必要ないと考えて、適当に放り捨てた」
「俺もだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! あのバイザー、ひとついくらすると思っているんですか!」
「日本円で六十万くらいか?」
「くそ、当たってます! ……ちょっと……倉庫の中は火の海で」
 窓の外を眺め、絶望的な表情になる栗田。倉庫からは、相変わらず黒い煙が止まることなく立ち上っているようだ。
「まあ、運がよければ無事に見つかるかもな」
「ひ、人ごとみたいに……誰のせいでこんなことになったと」
「そりゃまあ、俺だな」
 レイジがにやりとしながら手を上げる。ただし、倉庫を火の海にしたのはセイラだぞ、と他人ごとのように付け加えた。まるで反省の色を見せないレイジに、栗田の堪忍袋の緒が切れそうだ。そうなる前に先手を打つ。
「栗田、今回の訓練で気になったこと、3Dシミュレーターのプログラムに改善の余地がある部分をレポートに書き出して、近いうちに提出する」
「あ……はい……よろしくお願いします……いえ、そんなことよりですね――」
 これ以上説教させるのはごめんだ。
「レイジは気になったことはないか?」
「ん……とにかく敵が弱ぇ」
「もっと具体的に」
「弱いもんは弱ぇんだよ。そうとしか言えねぇな」
 レイジはそれ以上話す気がないようだ。というより話す能力がないのか。決して無能な頭ではないはずなんだが、不思議なことだ。
「ふむ……これが『脳みそ筋肉』……か……?」
 この国に来て、なにかの拍子に知った言葉。が、いまいち使いどころがわからなかった。こういう場面で使うのが正しいのだろうか。
「おいセイラ、なにか言ったか?」
「なんでもない」
 無視していた栗田がイライラしているのがわかって、さて次はどうやって誤魔化そうかと考え始めた矢先、壁際の端末装置が呼び出し音を上げる。ちっ、と唇を歪めつつ舌打ちをしたあと、栗田が元気のない足取りで近づき応答した。
「アルテイシア捜査官、星蹟第二支部からの呼び出しです」


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