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いま、その翼を広げて


Catastrophe-7

 薄暗い会議室は、喧々囂々とした空気に包まれていた。
 首相官邸にある大会議室。室内が薄暗いのは、地震の影響で電力供給が不安定になっていたためである。
 主立った閣僚や高官たちが集まり対策会議が開かれているが、ひとつの情報をきっちりと精査する前から次々と新たな情報が流れ込んでくる。それこそ津波のような情報量だった。
 そんな中、頭上を飛び交う情報にすべて耳を傾けすべてを完璧に理解し、めまぐるしい勢いで頭を回転させている人物がいた。
 桜庭清隆。内閣総理大臣補佐官。四十がらみの男性。ダークトーンのスリーピースを着こなし、小柄だが重量級の存在感に加え、彫りの深い精悍な顔立ちをしている。
「総理! ご指示を!」
「総理、どうかご決断を!」
「待て、こちらの承認が先だ! 総理!」
 話の切っ先を向けられた内閣総理大臣は、情けない渋面を作った。
「そんな一気にまくしたてられて答えられるか!? ええい、桜庭くん!」
 総理から助言を求められ、桜庭はいくつか提案をする。それはあらゆる状況を見越した非凡な対策であったり、関係各所に対する重要な連絡事項であったり。
 凡人が何時間も議論してやっとたどり着く「答え」に、桜庭は一瞬で手を伸ばすことができた。
 そして凡人である総理はそれを受けて、まるで自分の意見であるかのように通達した。
「政界一の天才的頭脳」や「真の総理」と呼ばれる桜庭の実力、影響力は、このような非常事態においてなによりも得がたいものだった。
「み、みなさん、スクリーンをご覧ください!」
 壁に備えつけられた大型スクリーンが、映像を映し出す。
 一同に動揺が走った。
「これは……なんだ?」
 閣僚のひとりが声をあげるが、答えられる者はいない。
 しかし、桜庭だけはそれがなんの「なれの果て」であるのか、瞬時に見抜く。
「……星核炉〈アクエリアス〉」
「はい。桜庭補佐官のおっしゃるとおりです。ごらんの映像は、リアルタイムでの〈アクエリアス〉です!」
 海に囲まれた小さな島。その上に、常識では考えられない異形が存在していた。
 ひと言で表すなら、「巨大な肉片がこびりついた建物」。
〈アクエリアス〉に限らず星核炉はどれも巨大な円筒形の建屋をしている。だが、映像のそれは半壊していた。その破損した部分を補って覆うようにこびりついているのが、白い肉片としか形容できない謎の物体。不気味に律動し、生きているかのように脈動を繰り返している。
 映像は空中から撮影されているようだが、そもそも星核炉周辺は飛行禁止区域となっている。マスメディアはもちろん、日本政府でも手が出せない領域だ。禁止区域の外から望遠で撮影したとしても、ここまで鮮やかに映らないだろう。
「この映像はどこから?」
 と、桜庭。
「そ、それがわからないんです。動画共有サイトで先ほど公開されたばかりのもので」
 地震の震源地が、〈アクエリアス〉の位置とほぼ重なるのはすでに判明していたが、この不気味な一致。
「これは本物の映像なのか? 誰かのいたずらという可能性も。昨今の映像技術は馬鹿にできん」
 閣僚のひとりが言った。
「それこそ馬鹿な。このような状況で誰がこんな映像を作るメリットがあるんだ?」
「しかし、出所不明の映像を鵜呑みにするわけには……」 
「おい! ゾディアーク・エネルギーに映像の真偽を問い合わせてくれ!」
「あの完全秘密主義の会社が、ご丁寧に答えてくれるのか?」
「だが、放っておくわけにもいくまい! 星核炉になにかあったら、国内どころか世界にも影響があるぞ! ただでさえ日本全国へのエネルギー供給が不安定になっているのに、これ以上なにかあってたまるか!」
「そうだ! 経済的損失もどのくらいの規模になるか、正直考えたくもない!」
 再び訪れる喧噪。
 蒙昧な意見が一巡し、やがて一同が桜庭を見た。想定外の出来事が相次ぎ、ほかの人間たちが考えることをやめた結果だ。
「ゾディアーク・エネルギーに問い合わせを。ただし、その映像の真偽はどうでもいい」
 桜庭は冷静な声で続ける。
「地震の発生は、星核炉〈アクエリアス〉の異常と因果関係があるのか、と」


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