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いま、その翼を広げて


Disappear-3

 照明が最小限まで絞られたオフィスには、重苦しい空気が流れていた。
「フォスター捜査官……いまなんと?」
「セイラくんの観察期間がしばらく凍結される。先ほどの会議で決まったことだよ」
 詩桜里の向かいに座っていた特等捜査官ジェームズ・フォスターは、深い葛藤をブルーの瞳に浮かべながら言った。
「どうして急に!?」
「汐見沢の一件が、上の機嫌を損ねたようだ。あれはやりすぎだと、多くの監理官が言っていたよ」
「た、たしかにやりすぎることはありますが、いままではそれでも成果を上げてきました!汐見沢では危険な怪物から、自衛隊員を守ったんですよ!?」
「それはわたしも知っているし、上にはそう伝えたさ。しかしだね……もともとセイラくんのことをよく思ってなかった連中が口をそろえて言ってるんだ。『やはりセイラ・ファム・アルテイシアを放し飼いにするのは危険だ』とね」
 ICIS日本支部の上層部は、保守派が大部分を占めている。だから当初、元暗殺者であるセイラを受け入れることに難色を示していた。しかしフォスターのような影響力のある理解者や、セイラがそれまであげてきた実績が後押しとなり、日本に入ることを許されたという背景があった。
「放し飼いといっても、セイラにはわたしという観察役が!」
「それでもきみは、彼女にほぼ自由を与えているだろう?」
「……っ」
「別に責めているわけではない。いまさらセイラくんの思想が、再び犯罪者のそれに戻るなんて考えちゃいないさ。彼女はもう更正していると、少なくとわたしは実感している」
「それならっ!」
「だがね、上は現状のセイラくんと彼女の過去は別物だと考えている。彼女はかつて大勢の人間を殺してきた。それは揺るがない事実。彼女の尋常じゃない戦闘能力も、事実であることに変わりはない」
「そこが恐怖の対象だと?」
「恐怖が薄れてきていたところに、汐見沢の一件がだめ押しになったようだね。ここ最近、毀誉褒貶あれどセイラくんの評判は上々だったから。いま彼女は、『ピアノを弾いた少女』――真城悠さんを捜しているんだったね。創樹院学園での親友だとか」
「はい」 
「だがその子はいま、政府の手中にある。つまり、悠さんを捜し出すということは、政府と敵対することと同義。それがどれだけ危険なことか、うちの上層部がそれを黙殺できるか否か……詩桜里くんならわかるね」
「……はい」
 詩桜里の瞳に諦観が宿った。感情だけではどうすることもできない現実がある。詩桜里はもう大人だ。
「わかりました。……ただ、セイラがおとなしく受け入れるとは思えませんが」
「『方法』はきみに任せる。セイラくんには、責任はすべてわたしにあると伝えてくれ……いや、つらいようならわたしが代わろうか?」
「いえ。これはわたしの役目です。二年間あの子の観察役を務めてきた、わたしがやらないといけないことです」 
 


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