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いま、その翼を広げて


Disappear-6

 ついにこの日が来たか、と桜庭は思う。
 真城悠がヘリとともに消息を絶ってから数日。なんの手がかりもつかめず、誰の犯行かもわからず捜索は暗礁に乗り上げている。ゾディアーク・エネルギーに事情は説明したが、返ってくるのは恐ろしまでに無感情な沈黙のみ。
 それだけでも頭が痛いのに、この現実。
 異種化が、ついに本土にまで侵食してきた。
 首相官邸の廊下を、桜庭は足早に歩いていた。隣を歩く秘書官が、青ざめた表情で言葉を続けている。
「――場所は千葉と茨城両県の、海岸沿いの地域です。SNSで情報が拡散され、もう大パニックですよ!」
 勢いよく扉を開け、大会議室に入る。
 室内は様々な怒号が行き交っている。そんな中、桜庭はまっすぐ総理のもとに向かった。
「桜庭くん! 待っていたよ!」
「自衛隊の出動要請は?」
「すでに出してある。歴史上初の治安出動命令だ! しかしどういうことだ? 星蹟島はすでに封鎖しているのに、なぜ新たな異種化が!?」
「〈アクエリアス〉も星蹟島も野ざらしです。物理的に遮断しているわけではない――総理」
 桜庭が総理に詰め寄る。こういうときはろくなことを言われないと、総理は経験則から身構えた。
「千葉と茨城両県全域を、警戒区域に指定してください。可及的速やかに!」
 話を聞いていた近くの閣僚や高官たちが次々黙り、静寂が室内全体に広がっていく。
「ば、馬鹿なことを言うな!? 不可能だ! 星蹟島と規模が違いすぎる! 両県全域? いったいどれだけの人口を抱えていると思っているんだ!?」
「不可能だろうがなんだろうが、やらないと日本は滅びます! この段階でも遅いくらいだ。……総理、あなたは日本の滅亡を止めることができなかった最悪な時代の無能総理として、歴史に名を残すおつもりですか?」
「ぐっ……!?」
「自衛隊では手が足りないでしょう。在日米軍にも協力要請を。彼らに貸しを作るのは気が進みませんが、背に腹は替えられない。さあ、総理!」
 顔を真っ赤にしてぷるぷると震える総理。やがて大きく深呼吸したあと、覚悟を決める。桜庭の言うとおりの指示を、各所に出した。
「桜庭さん、ちょっと」
 別の指示を与えていた秘書官が戻ってきて、桜庭に小声で話かける。ふたりは壁際に移動した。
「もう結果が出たのか?」
「そ、それが……真城惺の血液サンプルと、それに付随するすべてのデータが行方不明だと報告が」
「な――に?」
 汐見沢で拘束された際、惺とセイラは〈プロテクト〉で防護していた。耐性は完璧だ。しかしそう説明しても自衛隊は簡単には信じない。異種化に感染している恐れは本当にないのか、ふたりから血液を採取し徹底的に検査した。結果はシロだったため、またICISの強い要請があったため、ふたりの解放が決まった。秘書官の言う血液サンプルとはこのときのものだ。
「状況的に自然に紛失したとは考えにくいようです。となると――」
「誰かが盗み出した……?」
 ふと里見の顔が思い浮かぶ桜庭。もう彼は完全に消息不明。建前上では捜索させているが、人材不足で実質的には手がまわってない。もともと怪しいと感じる気配はあったが、あまりに有能だったため目をつむっていた。それがこの結果を招いたんだとしたら――桜庭がぐっと唇を噛みしめる。
 壁を大きく叩く桜庭。
 どうして蜘蛛の糸は、次々と簡単に切れてしまうのだろう。
「ど、どうしますか? このままじゃ――」
「真城惺の居場所はつかめているか?」
「はい」
「自衛隊――いや、警察に要請してくれ。彼はもう、我々に残された最後の希望だ!」


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