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いま、その翼を広げて


Extrication-18

 明朝早くには、惺たちは星蹟グランブリッジの裾までたどり着いていた。
 空が白み始めた頃、三人は車を降りた。
 車で橋を渡れば話は早いが、そう簡単にはいかない。黒月夜のアジトが星蹟島にあると判明した以上、安直には進めなかった。
 大地震から一ヶ月が経過し、星蹟島はもう完全にゴーストタウンと化していた。そこにのんきに車で侵入して、警戒されないと断言するほど楽観視する者はいない。
 星蹟グランブリッジの裾にある建造物に向けて、三人は階段を降りていく。
 やがて鉄製の頑丈な扉を前に立ち止まった。
「ここが入り口?」
 惺が訊いた。
「ああ。ちょっと待ってろ。いま開ける」
 スマートフォンを取り出したセイラはそこからケーブルを伸ばし、扉の横にある端末につないだ。端末の電源は生きていた。
「しかし、管理用の海底トンネルなんて無事なのか? あの地震、世界規模で見てもここ百年でもっとも大きかったらしいじゃないか」
 と、レイジ。
「誤解されやすいが、実は海底の構造物のほうが地震には強いんだ。正確には海底の岩盤の下、要するに地中だな。とてつもない重量から常に守られているから頑丈そのもの。そして、トンネルの建造主は天宮建設。同じ親を持つ星蹟グランブリッジを見ろ。あの大地震でもびくともしてない。日本が誇る建造技術だな」
 セイラは星蹟グランブリッジを見上げた。追うように、惺とレイジも見上げる。
 日本最大の複合企業、天宮グループ。その大黒柱、天宮建設の技術力は、世界最高レベルと称されていた。
 すぐに扉のロックが解除された。
 海底トンネルには、電線や水道管などのライフラインも併走して走っている以上、簡単に壊れることは許されない。事前の調査で、トンネルが星蹟島まで無事につながっていることを確認していた。
 ゆっくりと扉を開けるセイラ。非常灯はついているが、全体的に薄暗い。
 足を踏み入れたとき、レイジが口もとをにやけさせる。
「なんだ。気色悪い」
「これはあれだな。『海底トンネルで主人公たちを待ち受けるものとは!?』っつうやつだ。なにが出てくるのか楽しみだな。俺たちを待ち伏せる黒月夜の連中か、それとも異種化したネズミの群れか……くっくっく」

 数時間後。すでに太陽は高く昇り、頭上で存在感を誇示していた。
 三人は無事に海底トンネルをくぐり抜けた。
「なんでなんも出ねえんだ!?」
 扉を出たところで、唐突にレイジが叫んだ。
「大きな声を出すな。おまえは誰に文句を言っているんだ?」
「ここいらで一度ピンチに襲われるのが、セオリーってやつだろうに!」
「だから誰に文句を言っているんだ? なにごとも平穏がいちばんだろう」
 トンネル内部の密閉度は高く、そもそもネズミ一匹入り込む隙がなかった。生物がいないのなら、そもそも異種化は発生しない。
「俺だって異種化した動物と戦ってみたいんだ。なんでおまえたちだけ……」
「不謹慎すぎるぞ。……なあ、セオリーがどうとか言うのなら、今度あれをやってくれ」
「あん?」
「『ここは俺が食い止める! おまえたちは先に行け!』ってやつを。一度見てみたいんだ」
「……おまえ、俺がそんなこと言ったら、遠慮なく躊躇なく情け容赦なく置いていくだろ?」
 セイラはきょとんとした。
「それがセオリーじゃないのか?」
 ふざけんじゃねえ、とレイジは毒づく。
「惺、周囲に人の気配は?」
「……いや。ない。静かなものだよ」
 久しぶりに故郷の空気を感じる惺。
 災害直後特有の異臭が、空気に深く混ざっている。復興に手をかける前にこの島は封鎖された。周囲に散らばる瓦礫や、倒木や道路の陥没はそのまま。このあたりは台地の上で津波の被害はほとんどないが、荒れ果て具合はやはり揺れの大きさを物語っていた。
「油断するなよ、レイジ。おまえにも〈プロテクト〉をかけたが、異種化した動物と対峙しても、体液や皮膚にはなるべく触れるな」
「わかってるさ。んじゃ、行くぞ」


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