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いま、その翼を広げて


Extrication-2

 モニタールームのソファに座っていた斑鳩が、向かいに座っていた霞に非難めいた視線を向けた。
「姐さんはひどいなぁ。せっかく悠ちゃんの心を傷つけないように配慮してたのに、凜の心のほうを壊しちゃうんだもん」
「凜の心など、最初から壊れていただろう」
「……むむ」
 一理ある。というか真理な気がして、斑鳩は返事ができなかった。
「で、あれはなんだ?」
 壁一面に広がる大型モニターには、細分化された防犯カメラの映像が映し出されている。その一角を目で指して、霞は言った。
 悠にあてがわれた部屋の天井にある、隠しカメラの映像。ベッドに座った悠の正面に、凜が立っていた。
 凜がスマートフォンを悠に手渡し、なにやら話し込んでいる。音声が聞こえてこないのは仕様だった。
「あれ、悠ちゃんのスマホだよ。汐見沢で一緒に見つかってたの。ここに来るとき、念のため回収しておいたんだ。故障してたけどわざわざ修理してね」
 なぜだ? と無言で問いかける霞。
「ふふっ。僕は鬼でも悪魔でもないから」
 答えになってない、と目を細める霞。
「修理したときついでに改造したんだ。メールの送信が一回だけできるように。一度送信したら電源が切れるようになっている。そしたら二度と使えない」
「で?」
「ほら。悠ちゃんも人の子だし、家族に最後の別れぐらい言いたいかなぁって。もちろん、使ったらここの居場所がわかるようなヘマはしてないよ。……ねえねえ、僕って優しいでしょ?」
 褒めてほしそうな斑鳩は放って、霞は映像に目を戻した。
 悠は怯えている。幽霊を見てもここまでは怯えないだろうと思えるほどに。
 対する凜は後頭部が映っているだけで、表情はわからない。
 霞は光を失った凜の双眸を思い出す。いままではまるで「使い物」にならなかったが、心が壊れてくれたおかげで、やっと使えるようになってきた。
 将来が楽しみだと、霞は無機質な天井を仰いだ。


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