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いま、その翼を広げて


Extrication-20

「セイラ、起きてくれ」
 惺に起こされたセイラは、彼の声の険しさに一瞬で臨戦態勢を築いた。
「敵襲か?」
「いや。でも似たようなものだ。――黒月夜のアジトに異変があった」
 黒月夜のアジトから数キロの距離にある公民館に、惺たちはいた。アジトに侵入するのは夜に決め、それまでこの廃れた建物の中で順番に仮眠をとっていた。
 時刻は午後八時過ぎ。持ち運び可能な簡易ライトが照らす中、レイジが自前のタブレット端末を操作している。
「偵察のために『カメムシ』を放ったんだが、どうも様子がおかしい」
 レイジの言う「カメムシ」とは、小型のカメラが仕込まれた精密機器の俗称だ。遠隔操作で細かい飛行が可能。飛んでいる姿が実際のカメムシから似ていることから、こう呼ばれている。扱いの手軽さからICISだけでなく、世界各地の諜報機関で使用されていた。もっとも、向けられる対象からは本物のカメムシのように嫌われているが。
 セイラと惺がレイジのタブレットをのぞき込んだ。画素はやや荒いが、闇夜の中でも鮮明に映っている。フレームの中央に見えるのは、古ぼけた工場。鉄筋コンクリート製の無骨な建物だった。
 星蹟島南中部にある築山の上にそれはあった。この工場は昭和の時代、とある製造メーカーの本社家屋だったもの。しかしバブルの崩壊で倒産後、周囲の土地とともに売り手が見つからず、そのまま放置されていた。
 上空十数メートルの位置にあったカメムシが、徐々に建物に近づいていく。
 建物正面にある大きなシャッターの前に数人の人が倒れているのを、カメラがとらえた。さらに近づいていく。
「……ひどいな」
 セイラがつぶやくのも無理はない。映し出されているのは、かつて人だったものの残骸。手足や首がきれいに千切れ飛んだ、凄惨な遺体だ。
 装備から察するに、見張りに立っていた黒月夜の構成員だろう。
 セイラは、最近この手の光景に見慣れていっている自分が少し怖い、と感じた。
「仲間割れってわけじゃなさそうだな。誰にやられたんだ? こんな無茶な殺し方、ふつうじゃねえぜ」
「待て! なにか影が」
 シャッターに大きな影が映し出される。
「ヘリ……いや、このシルエットは――」
 つぶやきながらレイジがカメムシを操作する。
 カメムシが旋回、背後に向いていく。
 ――だが、大きな機影をとらえた直後、カメムシからの映像が途切れた。
「……レイジ、いま見えたか?」
「ああ。……久々に、自分の勘が間違ってますようにって思ったぜ」
「いまの機体は? なんか、自衛隊の……アルゲンタヴィス? それに似てたけど」
 惺に問われると、セイラとレイジが顔を見合わせた。剣呑な空気が漂う。
「おそらくアルゲンタヴィスと同型の機体だが、もちろん自衛隊のものではない。機体の側面に刻まれていたロゴが――」
 セイラの言葉を、レイジが引き継いだ。
「ゾディアーク・エネルギーが要する実行部隊Special Forces Guard、通称SFG。世界最強の特殊部隊だ。こいつらの前だと、さすがの自衛隊も子どものお遊技だぜ」
「そんなものが、どうして――」
 惺が言い終わる前に、セイラがはっとする。ゾディアーク・エネルギーは、悠の身柄引き渡しを要求していた。
「やつらも悠の居場所をつかんだのでは? 黒月夜に囚われていること知って、強襲してきたと考えれば、つじつまが合う!」
 悠が行方不明になったあと、ゾディアーク・エネルギーはあまりにも不気味な沈黙を保っていた。しかしここにきて動き出すとは予想外。セイラは思慮に欠けていたことに、唇を噛んだ。
「悠……っ!?」
 惺が飛び出す。
「待て、惺! やつらは危険だ!」
 惺の姿はもう見えなくなっていた。
 レイジがおもむろに立ち上がる。
「セイラ、星装銃のリミッターは?」
「詩桜里が解除してくれたみたいだ。どういう理由か知らないが」
 セイラたちは、詩桜里たちICISが自分たちの支援にまわっていることを詳しくは知らない。
「行くぞ。ここにいたってなんにもならねえ。イケメン坊ちゃんが無茶をする前に、真城悠と星峰凜の身柄を確保。即座に離脱する」
「おまえ、それがどれだけ難しいのかわかっているのか?」
「そのためにここに来た。違うのか」
「……そうだったな。SFGであろうと黒月夜であろうと、すべて叩き伏せる」


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