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いま、その翼を広げて


Extrication-21

 神速の斬撃が、SFGのひとりを斬り裂いた。
 脇腹から赤い血が噴水のように噴き出し、相手が沈む。その血が人間のものであることに、霞は不思議な感覚を覚えた。
 ……こいつらは本当に人間なのか?
 人間離れした身体能力と戦闘力は霞も一緒だが、相手も尋常じゃない力を有している。どんな相手でも数合斬り合えば実力の程度はわかるが、相手の実力は計り知れない。事実、いま冥府に送った人間も、霞にしてはとどめを刺すのに苦労した。
 強襲してきた連中がSFGであることに、霞はすでに気づいていた。
 霞はアジトの内部にいたが、凜と悠がいた区画とはだいぶ離れていた。連絡をとろうにも妨害電波のせいで通信機械が使えず、仲間たちとは散り散りになってしまっていた。
 敵の存在がなくなったのを確認しつつ、霞は周囲を見わたす。
 無数の遺体。むせかえるような血の臭気に満ちた、凄惨な光景が広がっている。
 霞が倒したSFGの死体が数人ほど。しかし、仲間の死体のほうがはるかに多い。一緒に戦っていた仲間のほとんどはすでに、SFGとの戦闘で冥府送りになっていた。
 鈴井と同じく、霞も斑鳩がいないことを毒づいた。斑鳩は頭脳も天才的だが、戦闘能力も一級品だった。加えて斑鳩には星術がある。このような緊急事態にいなくて、いったいどこで役に立つ気だ、と。
「凜……」
 霞のつぶやきに返事をする者は、ひとりとしていない。
 SFGの狙いが真城悠なのは間違いない。彼女は見つかり次第、即座に捕縛されるだろう。
 だが、凜は違う。
 見つかったら、きっと凜は殺される。SFGが捕縛対象以外を見逃すなんてことはまず考えられない。煌武の屋敷から凜を連れ出した以降の二年間、徹底的な戦闘技術を仕込んだが、それでもSFGにはまるで歯が立たないだろう。しかも凜にとって実戦は久しぶりだ。
 SFGの容赦のなさと冷酷無慈悲さは、噂としては有名だった。それに比べれば自分たちはずいぶん優しいと、霞は自嘲的に笑う。
 真城悠はこの際、あきらめよう。異種化のワクチンを製造して日本政府と取り引きをするつもりだったが、この期に及んではあまりにもリスクが大きすぎる。
 だが凜だけは、なんとしてでも生き残ってほしい。
 そんな肉親のような感情があることに、霞は再び自嘲めいた笑みを浮かべつつ、その場から去っていった。


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