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いま、その翼を広げて


Extrication-27

「セイラ、これからどうする?」
 築山の森を抜け道路に出たところで、惺が言った。地震で無慈悲に破壊された街に、人工的な明かりは存在しない。月明かりと〈星の枝〉の輝き――自然の恩恵だけを頼りに、ふたりはそっと周囲の様子をうかがった。
 人の気配はない。幸い、SFGの魔の手はここまで伸びてはないようだ。
「できるだけ早く、ここから離れたほうがよさそうだな」
「……けど、徒歩だと限界がある」
 いくら惺でも、凜を背負ったまま無茶はできなかった。
「――っ。まずい。敵が分散してこっちに向かってる!」
 急に背後を振り向き、惺が忌々しそうに口にした。セイラも舌打ちする。
「さすがにレイジでも、あの人数は抑えられないか」
 と、道路の先でセイラがなにかを見つけた。
 真っ赤なスポーツカーが路肩に寄せられている。すぐそれに駆け寄ったセイラはドアを開けた。ロックはされてない。そして、運転席のシートの上に無造作に置かれていたスマートキーを見て、にやりとした。
 シートに座ってイグニッション・キーを押すと、無事にエンジンがかかる。
「でかしたぞ、詩桜里。惺、車に乗り込め!」
 惺は助手席のドアを開け、「ごめんな、凜」と小さく謝りながら狭い後部座席に凜を放り込んだ。続いて惺も車に乗り込む。
 セイラが勢いよくアクセルを踏むと、車は発進した。SFGに見つかる恐れがあるため、ヘッドライトはつけない。
 勘だけで暗闇の中を器用に進んでいく。地震が破壊した道路はでこぼこしているが、走れないほどではなかった。
「この車は?」
「詩桜里の愛車だ。車から避難する際はなるべく路肩に止めて、ロックもせずキーも置きっ放しにする。災害時のマニュアルどおりだな。さすがは真面目な公務員」
 詩桜里が創樹院学園に避難してきたとき、「――星蹟グランブリッジを降りてしばらく走ったあたりで地震に巻き込まれて――」と言っていたのを、セイラは思い出した。この道路は、星蹟グランブリッジから自宅マンションに向かう道のひとつだ。
 車を走らせる中、惺は背後を気にしていた。存在する意味があるのかわからない狭い後部座席で、うずくまるようにして凜が相変わらず気を失っているが、惺の意識が向かう先はそこではなかった。
「レイジの心配をしているのか?」
「それもだけど、海堂霞さんも。彼女も残ったみたいだし……」
「あいつは敵だぞ。わたしたちを騙していたのを忘れたのか?」
「そうだけど」
「……おまえは優しいな」
 やれやれ、と苦笑するセイラ。
 車のバンパーがなにか突起物に当たりこすられる。崩れ落ちた建物が道路の半分をふさいでいて、一台がやっと通れるような隙間を、車体の側面をがりがり削りながら無理やり抜けた。暗闇の上に最悪に近い道路状況の中で、詩桜里の車は、持ち主が見たら気を失いそうなレベルで損傷していく。
「奇遇だな。これで持ち主本人と同じで傷物になった! ……惺、そうむすっとするな。さすがのわたしでも、冗談を言ってないとやっていられない状況なんだ」
「レイジさんが心配か?」
「あいつは『殺しても死なない人間』のお手本のような男だ。しかし――」
 その先をセイラは言わなかったが、惺はすぐに察して話題を変えた。
「どこに向かってるんだ?」
「決めてない。距離をとってから身を隠せそうな場所を見繕うつもりだ」
「それなら、手に入れたい物があるんだ。だから――」


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