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いま、その翼を広げて


Extrication-28

 薄汚れたベッドの上で凜が眠り、ひび割れた窓から差し込む月明かりがその横顔を照らしている。それを傍らで眺めていたセイラは、久かたぶりの安堵を覚えた。
「……無事でよかった」
 地震の前日から行方不明になっていた凜は、まるで消息の手がかりがつかめないでいた。 それでも無事にこうして生きている。凜の服は泥だらけでぼろぼろたったため、セイラが着替えさせていた。
 しばらくすると惺が戻ってくる。
「地下は浸水してたんじゃないのか?」
「大丈夫。地下の防水設備は完璧なんだ。一階は悲惨だったけど、地下は無事だった」
「そうか。それで、目的の物は手に入ったのか?」
 惺はうなずいた。
 真城邸の二階にある惺の自室。本棚やサイドボード、キャビネットなどはすべて倒れ、中身がそこらじゅうに散らばっている。二十畳ほどもある部屋は、高校生の自室にするには広大で贅沢すぎる。それもそのはず、ここはかつて父・蒼一の部屋だった場所だ。
 一階はさらに悲惨だった。かつて友人たちと食事会を開いたリビングは津波で徹底的に流され、もはや見る影もない。島の上にぽつんと構えている真城邸に、津波を防ぐ防御力はなかった。不幸中の幸いなのが、こうして全壊を免れていたことだけだ。  
「凜は?」
「まだ目覚めない」
 眠っている凜の表情は苦悶がにじみ出ていて、時折うなされていた。
 惺は凜の顔をのぞき込む。
「……心がぐちゃぐちゃなのを、星術で無理やり抑えている……? いったいなにがあったんだ?」
「目覚めて落ち着いたら詳しく訊こう。素直に話してもらえるかわからないが」 
 と、惺が窓の外を注視した。
「どうした?」
「……お客さんだ」
 直後、爆発音が響いた。


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