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いま、その翼を広げて


Extrication-34

 潜水艦のブリッジ、操舵席に座ってコンソールパネルを操作していたセイラは、思わずうなり声をあげた。
「この潜水艦を設計した人物は天才だな」
 潜水艦のすべてを制御するメインシステムは、既存のどのシステムとも違う斬新な設計思想で構築されていた。独自のインターフェイスやユーティリティを備え、あらゆる事態に対処できるよう、高度な演算システムが組み込まれている。静粛性やステルス性能も完璧。さらに潜水艦ではいまだほとんど見られない、完全なオートパイロットが実装されている事実に、セイラは瞠目した。大国の軍隊が、どんな犠牲を支払ってでも手に入れたいと思えるような代物だった。
「……いや、むしろ馬鹿なのか? これほどの代物を、趣味で造りあげただと! 凜、おまえの兄貴だったな」
 後ろの席に座っていた凜に問いかけた。
「う、うん」
 凜はこの潜水艦が、実兄である斑鳩聖――煌武聖陽によって建造されたことと、自分と彼の関係を伝えていた。
「発明家にでもなれば巨万の富を築けるだろうに。才能の無駄遣いだな、これは」
「それで、動かせそうか?」
 と、凜の隣に座っていた惺。
「問題ない。むしろ、素人でも勘だけで動かせそうなのが、この潜水艦のおかしなところだ。――発進シークエンスに入る」
 潜水艦全体が、低い駆動音に包まれる。しかしそれは内部だけで、外部にはいかなる振動も漏れてはなかった。
「凜、本当についてくるのか?」
 と、惺。
 悠を救い出すため、三人は彼女が囚われている場所に向かう。霞が残したこの潜水艦は、その場所に向かうためにうってつけの乗り物だった。   
「うん。見届けなくちゃ……自分自身の目で」
 最初は惺もセイラも、凜がついてくるのには反対だった。どんな危険が待ち受けているか、わかったものではないからだ。
 しかし凜の強い決意に、最終的にふたりは折れることになる。
 わずかに揺れる室内が、潜水艦の発進を伝えた。
「なあ、セイラ」
 後方の一点を見つめながら、惺が言った。
「この潜水艦、星核炉と同じ気配がする」
「……まさか」
 セイラがコンソールパネルを操作すると、正面のメインモニターに様々な情報が映し出される。
 やがて、セイラは感心したのかあきれたのか判断できないため息を吐いた。
「驚いたな。この潜水艦の動力源は小型星核炉だ」
「それって、セレスティアル号から盗まれたってやつか?」
「おそらく。盗っ人猛々しいとはよく言うが……そうか、それならあの事件でわたしが対峙したあの男は――」
 凜は事情を知らなかったため、顔をしかめていた。そのうち説明しよう、とセイラは言う。
 潜水艦が海中に沈んでいく。
「目的地は星核炉〈アクエリアス〉。一気に行くぞ!」


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