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いま、その翼を広げて


Extrication-36

 感じたこともない感触を全身に浴びながら、凜の意識は消えようとしていた。
 凜本人には、肉の壁の中を進んでいるという認識はない。
 凜はその中で捕食されることも消化されることもないまま、なにかの意思に導かれるように、ひたすら「奥」へ向けて進んでいく。
 ふと、懐かしい存在を感じた。
 凜は目を開けた。
 まばゆい光の満ちる世界が、そこに広がっていた。
 その最奥に、見慣れた金髪が揺らめいている。
 声を出そうとするが、凜の口から漏れた空気は音にならず、光に吸収された。
 現実と夢の境界線の狭間で、凜の意識は薄らいでいく。
 無意識に手を伸ばした。一度は手放した存在に向かって。
 もう一度触れることが許させるのなら、自分は死んでもいいと、凜は思った。
 金髪が徐々に近づいてきて、やがて完全に悠の姿を認めた。
 凜はまた声をあげようとした。
 だが、できなかった。
 まるで聞こえざる声に起こされたかのように、悠のまぶたが開く。
 彼女の双眸が、凜を見据えた。
「――――っ!?」
 凜は戦慄した。
 悠の瞳には、もう光は残されてなかった。
 周囲の光すら完全に飲み込んでしまいそうなほどの闇が、悠の瞳を支配している。


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