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いま、その翼を広げて


Interlude04-2

 忘れ去られた存在が、海底を漂っていた。
 太陽光がわずかに届くぎりぎりの深度で異種生命体は――セイラと惺に退けられ、海に逃げ込んだ異形の怪物は、死に絶えることなく生き続けていた。
 海中は生物の宝庫だ。特に星蹟島周辺は海流の関係もあり栄養豊富で、プランクトンやデトリタスなどには事欠かない。
 静かにゆっくりと、だが着実に異種生命体は進化を続けている。すさまじい水圧のかかる環境でも質量は増し続け、地上にいたときよりも巨大化していた。
 深海魚が異種生命体を発見した。もちろんその深海魚に、異種生命体の姿形に恐怖を感じるような知能はない。食べられそうなものがある――おそらく本能だけで口を開けたのだろう。そのまま近づいていく深海魚。
 しかし、捕食されたのは深海魚のほうだった。
 長い腕とも舌とも判断できない謎の器官が伸び、深海魚をとらえる。そのまま体内へ引きずり込んだ。深海魚は一瞬で融解し、異種生命体のエネルギー源へと変化する。もはや経口摂取という概念すら、異種生命体には存在しない。
 しかし、ある時期から異種生命体は物足りなさを感じていた。
 進化に必要なエネルギーが、ついに捕食して補っていたエネルギーを上まわったのだ。異種生命体の意志とは無関係に進化は続く。だが、それに限界が見えてきた。このままでは、進化するだけで飢えてしまう。
 なにか根本的な変化が必要だ――そんなことを異種生命体の本能が「考えて」いたとき、唐突に海底が揺れた。巨大なうねりが生まれて、海中が掻きまわされる。
 創樹院サマーフェスティバルを中止に追いやったあの地震だったが、異種生命体がそれを知るよしはない。
 だが、この地震が異種生命体の運命を決めた。
 地震の影響で海底にわずかな裂け目が生まれる。地球規模で見たら、かすり傷にも満たない極小の裂け目。しかし、異種生命体が通るには充分な大きさがあった。
 裂け目から、液体でも気体でも個体でもない、未知のエネルギーがあふれ出す。
 地球をめぐる生命エネルギーを循環させる大動脈「星脈」。裂け目はそれに通じていた。
 異種生命体は思い出した。
 ああ、これを求めていたんだと。
 そして本能で悟った。極上の「食事」が、その裂け目の先にあると。
 海底を這い、裂け目まで到達した異種生命体は、なんの躊躇もなくそこに飛び込んだ。


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