桃子という名が月城くんにとってどれだけ重いものなのか、言葉の響きでわかる。
……わたしには無理なのかな。
これから先、わたしが月城くんを支えていくことは――そんな考えが大きくなっていく。
月城くんがわたしの肩を抱いたまま、正面に見据えてきた。視線が交錯し、心臓の鼓動が一段と高まる。
吸い込まれそうなほど澄んだ瞳が、わたしに向けられた。混濁も迷いもなにもない、純粋な眼差し。彼をはじめて見たときの瞳そのものだった。
けど、次の月城くんの言葉が、わたしを凍りつかせた。
「これでやっと、死ぬ覚悟ができたよ」
「――――っ、月城……くん?」
「桃子のそばに行くこと。それが俺の答えだ――さようなら」
揺るがない決意を秘めた瞳の光が、わたしを射抜いた。そして月城くんはわたしから手を離し、颯爽と踵を返していった。
「あっ……」
――だめ! いまの彼をひとりにしちゃ!
どこかからそんな声がした気がする。でも、唐突な言葉にわたしの体は動かない。金縛りにあったように固まっている。声帯も凍りついていた。
「つ、月城くんっ!?」
やっと声が出たときはもう、月城くんの姿は消えていた。