第十一章 04

 桃子という名が月城くんにとってどれだけ重いものなのか、言葉の響きでわかる。
 ……わたしには無理なのかな。
 これから先、わたしが月城くんを支えていくことは――そんな考えが大きくなっていく。
 月城くんがわたしの肩を抱いたまま、正面に見据えてきた。視線が交錯し、心臓の鼓動が一段と高まる。
 吸い込まれそうなほど澄んだ瞳が、わたしに向けられた。混濁も迷いもなにもない、純粋な眼差し。彼をはじめて見たときの瞳そのものだった。
 けど、次の月城くんの言葉が、わたしを凍りつかせた。

 
「これでやっと、死ぬ覚悟ができたよ」

  
「――――っ、月城……くん?」
「桃子のそばに行くこと。それが俺の答えだ――さようなら」
 
 揺るがない決意を秘めた瞳の光が、わたしを射抜いた。そして月城くんはわたしから手を離し、颯爽と踵を返していった。
 
「あっ……」
 
 ――だめ! いまの彼をひとりにしちゃ!
 どこかからそんな声がした気がする。でも、唐突な言葉にわたしの体は動かない。金縛りにあったように固まっている。声帯も凍りついていた。
 
「つ、月城くんっ!?」
 
 やっと声が出たときはもう、月城くんの姿は消えていた。





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