月城くんは全身びしょ濡れのまま、白い砂浜の上に寝そべっている。
意識はない。体温も低い。でも、呼吸は安定していて命に別状はないようだった。
わたしは月城くんの傍らに膝を抱えて座り、所在なさげにしていた。もちろんわたしも全身びしょ濡れだ。
「月城くん……」
彼の頬を、わたしはそっと撫でた。ニキビひとつない、綺麗な肌。近くで見れば見るほど、彼の秀麗で精悍な顔立ちに心が躍動してしまう。
月城くんの唇に、目を奪われた。いまは心なしか青ざめているけど、引き締まって整った形をしている唇。
「――っ」
全身の血が沸騰したような熱さを覚えた。びしょ濡れで本当は寒いはずなのに、どこか熱い。これなら服が吸った大量の水分も、すぐに蒸発しそうだった。
そのとき、不意に月城くんが小さくうめき声をあげる。
「も……もも……こ」
そうつぶやいた月城くんのまぶたから、一筋の涙が流れた。
月城くんの心には、いまでも桃子というひとりの少女がいる。わたしの――いや、誰も入り込む隙間がないほどに、彼の心はその名で埋め尽くされているみたい。
桃子ちゃんのそばに行きたいという月城くんの純粋な願い。
……もしかしたらわたしは、それを踏みにじったんじゃないの……?
罪悪感が生まれる。でも同時に、あのまま海中へと沈みゆく月城くんを見捨てることは、わたしにも天宮くんにも絶対にできなかったと思う。
天宮くんに電話で言われたとおり、わたしはこの海岸に到着した。タクシーから降りたとき、砂浜から沖に向かってなにかを必死に叫んでいる天宮くんを発見。彼の視線の先、遠くの沖には、いまにも海中へ消えそうな儚い後ろ姿が見えた。
なんの躊躇もなく海へ飛び込み、月城くんの存在だけを目指し、必死に泳いだ。
そしてわたしは無我夢中で彼の腕をつかみ、唇を奪った。無我夢中で肺の空気を送り込んだ。
一瞬、月城くんは目を大きく見開いたような気がする。でも、また意識を失ったのか、彼の体は再び沈んでいこうとした。
それからひたすらに泳ぎ、海上へ顔を出したまでは覚えている。けど、それからはよく覚えてない。
途中から天宮くんも手伝ってくれた気がするけど、気がついたら、わたしは砂浜の上にしゃがみ込み、呆然としていた。
月城くんに応急処置を施す天宮くんの必死な姿が、記憶に残っている。
そしていま。
「月城くんっ、しっかり、しっかりしてっ!」
呼びかけた声が届いたのか、やがて、月城くんがゆっくりとまぶたを開いた。