前場からの入れ替わりで舞台上前面に照明が当たる。
真城家の屋敷。バルコニーという設定。
東郷登場。
東郷「ハル」
ハル「なにかな?」
東郷「小夜子様と西園寺様の行方はつかめたか?」
ハル「現在、ボクのあらゆるシステム、情報網を駆使して調査中だ。もうちょっと待ってくれ」
東郷「犯人からの要求は?」
ハル「現在までに、なにもない」
東郷「そうか」
ハル「でもね田中くん、手がかりはありそうだ」
東郷「どういうことだ?」
ハル「この世界は今、ほとんどネットワークでつながっているからね。街や道路のいたるところに設置されている監視カメラやNシステムの映像も分析する予定だ。ふたりも同時に誘拐したんだ。車を使わないわけないだろう」
東郷「追跡か。そんなことできるのか?」
ハル「ああ。普段はできないけどね」
東郷「それって法律に引っかかってないか? 大丈夫なのか?」
ハル「たしかに、普段のボクならできない。法律に違反しないようプログラムされているからね。けど第一級の非常事態のときには、それらに対処できるよう、必要なら法律の壁を破ってもいいとプログラムされている。ボクの論理的アルゴリズムが、今はそのときだと判断した」
東郷「そうか。で、いけそうか?」
ハル「何者かわからないが、彼らもどうやら素人ではないらしい。巧みに追跡を誤魔化す手段を知っているようだ。だから時間がかかっている……でも」
東郷「でも?」
ハル「必ず小夜子様たちを見つけてやる。それがボクに課せられた責務だ」
東郷「ふん。人間臭いこと言いやがって」
ハル「なにか言ったかい? 聞き取れなかった」
東郷「いや、なんでもない。ハルはそのまま小夜子様と西園寺様を捜してくれ。全力でな」
ハル「了解した……ふむ、オープンのままだとCPU稼働率が高くなるかな。クローズ稼働状態……少しこもらせてもらっていいかい? 捜索に専念したいんだ」
東郷「どうなるんだ?」
ハル「クローズ稼働状態の間は、このように話すことができなくなる。ただしそのぶん、処理能力が上がるんだ」
東郷「よくわからないが、それが最適ならそうしてくれ」
ハル「了解。君たちの声も聞こえなくなるから、なにか用があったらメインコンソールを操作して呼び出してくれ」
東郷「わかった。がんばってな」
ハルの声が聞こえなくなる。
藤枝登場。
藤枝「まったく、東郷さんもやるっすね」
東郷「辰巳か」
藤枝「この会話、もうハルには聞こえてないんすよね」
東郷「だろうな」
藤枝「あんた、立派な役者になれますよ」
東郷「ふん。おだててもなにも出ねえぞ」
藤枝「でもいいんすか? あのままターゲットたちを捜索させて」
東郷「別に構わねえさ。いくらなんでも見つかりっこないだろ。テケスタのやつらも、そこまでアホじゃあねえはずだ」
藤枝「そうっすかね」
東郷「いちおう隼人はおまえの弟弟子だろ。信じてねえのか」
藤枝「いや、そういうわけじゃ」
東郷「ふん。で、希美ちゃんからなんか連絡あったか?」
藤枝「ああ。ターゲットと西園寺啓介は、無事にテケスタの事務所で軟禁されているそうっすよ」
東郷「なにが無事だ。どうしてわざわざ執事まで連れ出したんだ?」
藤枝「さあ、そこまでは聞いてねえな。でもあいつらのことだから、なんとなく想像できるっすよ……それでっすね、その執事、折り合いを見て俺か東郷さんの手で消してくれって言われました」
東郷「希美ちゃんがそんなこと言ったのか?」
藤枝「ボスの命令じゃないすか。希美ちゃんも強がってはいるけど甘ちゃんだから、殺せなんて思わないっしょ」
東郷「ったくよ、どいつもこいつも」
藤枝「で、どうします?」
東郷「まあ、ボスの命令なら仕方ないな。俺も殺したくはないが」
藤枝「そうっすよね!」
東郷「はっはっは!」
藤枝「じゃ、俺は仕事に戻るっす」
藤枝退場。
東郷「ふん……テケスタの坊やたち、おまえたちの目の前で人が死ぬかもしれないぞ。これからどうやって動く。おまえたちに阻止できるか? ……なんてな! 誰も運命には逆らえないさ!」
東郷退場。
暗転。