第二幕 第三場

 前場からの入れ替わりで舞台上前面に照明が当たる。
 真城家の屋敷。バルコニーという設定。
 東郷登場。

東郷「ハル」

ハル「なにかな?」

東郷「小夜子様と西園寺様の行方はつかめたか?」

ハル「現在、ボクのあらゆるシステム、情報網を駆使して調査中だ。もうちょっと待ってくれ」

東郷「犯人からの要求は?」

ハル「現在までに、なにもない」

東郷「そうか」

ハル「でもね田中くん、手がかりはありそうだ」

東郷「どういうことだ?」

ハル「この世界は今、ほとんどネットワークでつながっているからね。街や道路のいたるところに設置されている監視カメラやNシステムの映像も分析する予定だ。ふたりも同時に誘拐したんだ。車を使わないわけないだろう」

東郷「追跡か。そんなことできるのか?」

ハル「ああ。普段はできないけどね」

東郷「それって法律に引っかかってないか? 大丈夫なのか?」

ハル「たしかに、普段のボクならできない。法律に違反しないようプログラムされているからね。けど第一級の非常事態のときには、それらに対処できるよう、必要なら法律の壁を破ってもいいとプログラムされている。ボクの論理的アルゴリズムが、今はそのときだと判断した」

東郷「そうか。で、いけそうか?」

ハル「何者かわからないが、彼らもどうやら素人ではないらしい。巧みに追跡を誤魔化す手段を知っているようだ。だから時間がかかっている……でも」

東郷「でも?」

ハル「必ず小夜子様たちを見つけてやる。それがボクに課せられた責務だ」

東郷「ふん。人間臭いこと言いやがって」

ハル「なにか言ったかい? 聞き取れなかった」

東郷「いや、なんでもない。ハルはそのまま小夜子様と西園寺様を捜してくれ。全力でな」

ハル「了解した……ふむ、オープンのままだとCPU稼働率が高くなるかな。クローズ稼働状態……少しこもらせてもらっていいかい? 捜索に専念したいんだ」

東郷「どうなるんだ?」

ハル「クローズ稼働状態の間は、このように話すことができなくなる。ただしそのぶん、処理能力が上がるんだ」

東郷「よくわからないが、それが最適ならそうしてくれ」

ハル「了解。君たちの声も聞こえなくなるから、なにか用があったらメインコンソールを操作して呼び出してくれ」

東郷「わかった。がんばってな」

 ハルの声が聞こえなくなる。
 藤枝登場。

藤枝「まったく、東郷さんもやるっすね」

東郷「辰巳か」

藤枝「この会話、もうハルには聞こえてないんすよね」

東郷「だろうな」

藤枝「あんた、立派な役者になれますよ」

東郷「ふん。おだててもなにも出ねえぞ」

藤枝「でもいいんすか? あのままターゲットたちを捜索させて」

東郷「別に構わねえさ。いくらなんでも見つかりっこないだろ。テケスタのやつらも、そこまでアホじゃあねえはずだ」

藤枝「そうっすかね」

東郷「いちおう隼人はおまえの弟弟子だろ。信じてねえのか」

藤枝「いや、そういうわけじゃ」

東郷「ふん。で、希美ちゃんからなんか連絡あったか?」

藤枝「ああ。ターゲットと西園寺啓介は、無事にテケスタの事務所で軟禁されているそうっすよ」

東郷「なにが無事だ。どうしてわざわざ執事まで連れ出したんだ?」

藤枝「さあ、そこまでは聞いてねえな。でもあいつらのことだから、なんとなく想像できるっすよ……それでっすね、その執事、折り合いを見て俺か東郷さんの手で消してくれって言われました」

東郷「希美ちゃんがそんなこと言ったのか?」

藤枝「ボスの命令じゃないすか。希美ちゃんも強がってはいるけど甘ちゃんだから、殺せなんて思わないっしょ」

東郷「ったくよ、どいつもこいつも」

藤枝「で、どうします?」

東郷「まあ、ボスの命令なら仕方ないな。俺も殺したくはないが」

藤枝「そうっすよね!」

東郷「はっはっは!」

藤枝「じゃ、俺は仕事に戻るっす」

 藤枝退場。

東郷「ふん……テケスタの坊やたち、おまえたちの目の前で人が死ぬかもしれないぞ。これからどうやって動く。おまえたちに阻止できるか? ……なんてな! 誰も運命には逆らえないさ!」

 東郷退場。
 暗転。


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