翌日の朝。
わたしが起きたら、隣のベッドで寝ているはずの詩桜里の姿がなかった。
寝起きがめっぽう悪い詩桜里は、目覚まし時計などという生やさしい道具では起きない。文字どおり、わたしが叩き起こさないといけない。
今日は特別早く出るようなことは言っていなかった。不審に思いながら、寝室からリビングへ出た。
「セぇ~イぃ~ラぁ~っ!?」
「――っ!?」
さすがのわたしも、飛び退きそうになってしまった。
リビングのソファに座る詩桜里の顔が、とんでもないことになっている。
血走った目。つり上がった眉。血色の悪い肌。
そしてなにより、化粧をしてないすっぴんの顔が、その凶悪かつホラーな人相に拍車をかけていた。さらにオレンジ色のポップなパジャマ姿とのギャップが凄まじい。幼い子どもが見たら、間違いなく泣いている。
「きょ、今日は早いんだな」
「違う! 寝られなかったのよ!」
「ん? そうなのか」
「そうなのか、じゃないわよ! 絶対、あんたが昨日飲ませた栄養ドリンクのせいだわ! もうっ、体の芯が焼けるように熱くて、目がかっと見開いて、一睡もできなかった!」
「あんなにおかわりするからだ。詩桜里が飲んだ量から計算すると、おそらく今日の昼頃までは元気はつらつのままだな」
「なによそれ! 最初に言ってよ! 飲み過ぎはよくないって!」
「すまないな。失念していた」
「くぁ~っ!? 他人事みたいにっ! いまはまだいいけど、昼以降、仕事中に眠くなったらどうするのよ! こういうのってあれでしょ、リバウンドみたいに、あとから一気に眠気が襲ってくるんじゃないの!」
「詩桜里の推察はおそらく正しい。それを解決する方法はひとつしかないな」
「なに!」
「栄養ドリンクの原液も炭酸飲料もまだある。それを仕事場に持っていけ。眠くなったらわたしがやったように混ぜて飲めば、帰宅するまでは保つんじゃないか」
「今日の夜は飲み会の予定が……ぐっ……でもあの原液、においが」
「背に腹は代えられない。ここは堪忍しろ」
「はあ。おいしいからって、あんながぶがぶ飲むんじゃなかった。やっぱりあなたのような人物が作る料理は要注意ね」
「人の厚意と親切を否定するつもりか?」
「うるさい! 着替えて化粧してくる!」
化粧前のこの顔で怒鳴られたら、もしかしたら大人でも泣くかもしれない。
しかし、わたしはしないし興味もないが、化粧というのは女性にとって生命線のひとつなのだろうか。素の自分を仮面で隠し、社会にとけ込ませる現代人のすべ。
「……化けの皮」
「なにか言ったかしら?」
ぎらっと睥睨してくる詩桜里。
怖い。さすがのわたしでも泣きそうだ。