いま、その翼を広げて– category –
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Finale
「……やっぱこれじゃあ釣れないよなぁ」 様々な瓦礫が大量に浮かぶ海面に釣り竿を向けていた男が、ぼそりとつぶやいた。 かつてレイジと霞が戦闘を繰り広げた、南裾... -
Extrication 34
光の世界は激しいうねりをあげていた。うねりは奔流となり、空間を縦横無尽に蹂躙している。 その中を凜は漂っていた。上下左右のない空間で、上下左右に引っ張られ... -
Extrication 33
光の世界の果てに、大きな樹があった。 真城邸の近くにある大星樹を彷彿させる、巨大な樹。 だがそれは樹の質感を有してない。幹から葉まで、すべてが白っぽい肉の... -
Extrication 32
閃光が弾けた。 惺とセイラが目を開ける。 目の前に凜がいた。 力なく座り込み、膝を抱えてうつむいている。絶望や諦観が、凜の全身から発せられていた。 「正気... -
Extrication 31
感じたこともない感触を全身に浴びながら、凜の意識は消えようとしていた。 凜本人には、肉の壁の中を進んでいるという認識はない。 凜はその中で捕食されることも... -
Extrication 30
星蹟島から目視でも確認できる距離の海上に、星核炉〈アクエリアス〉は屹立していた。 普段、星核炉周辺は海でも空でも、部外者は完全に立ち入ることができない。か... -
Extrication 29
潜水艦のブリッジ、操舵席に座ってコンソールパネルを操作していたセイラは、思わずうなり声をあげた。 「この潜水艦を設計した人物は天才だな」 潜水艦のすべて... -
Extrication 28
自分の死期が予想よりはるかに近いことを悠が知ったのは、15歳のときだった。 連日のリサイタルで疲労が重なり、倒れたことがある。売れっ子ピアニストのスケジュー... -
Extrication 27
空がわずかに白み始めている。長い夜が、あと少しで明けそうだった。 自室に隣接されたテラスで、惺は空を眺めていた。 ガラス戸が開き、セイラが顔を出す。 「凜... -
Extrication 26
自分を抱きしめるようにしながら、凜は泣きじゃくっている。仕草や声の質感はもう、女性のそれだった。 それを見つめながら、霞は嗤っている。 「まさかおまえが凜...