――なぜ人は生きているのだろうか。
そんなことはわからない。俺が知るものか。
自問自答を始めてすぐ、こんな身もふたもない答えが思い浮かんだ。それもそうだ。こんな難しい命題に答えられるほど俺は長く生きてないし、人生経験も多くない。
それにしても、この年齢でこんなことを常に、しかも真剣に考えているようなら、俺は相当不幸な部類の人間だろうと思う。
学園の屋上でひとり、こんなことを延々と考え続けている。友達同士でくだらないことをしゃべったり、馬鹿なことを言い合って爆笑するという、一般的な高校生活の次元からかけ離れていた。
つまりは、異常――自分が一種の異常であることは、ずいぶん前から認識していた。
それでも考えずにはいられない。
俺はいま、なぜ生きているのだろう。いちばん大切なものを失ってもなお、俺は生にしがみつこうとしている。あの日から二年間、抜け殻のような人生を送ってきたのはなぜだろう。
どうして死を選ばないんだ。死ぬのが怖いからか?
……それとも。
寝転がりながら見上げた先。そこにあるのは広大な青空だった。俺の想いなどつゆ知らず、空はただ、どこまでも果てしなく、清々しいほどまでに青い。
そして。
いつも空を見上げていた、儚い少女の姿を思い出した。
あの子も空を見上げるのが好きだった。いつもなにもせず、砂浜の上に座ってただ空だけを見つめていた。
俺もいつからか、そんなあの子と一緒に空を見上げるようになった。
空は変わらない。あの頃から、ずっと不変のままでそこにある。でも、あの子と一緒に天空を仰いだときとはなにかが違っている。空はどこも変わっていないのに、この違和感。
……変わったのは……俺、か。
ふと思う。以前は他人の喜びやしあわせが、自分にとって最高の幸福だった。その価値観がいつの頃からか、まるっきり逆転してしまった。
俺とあの子が出会ってしまったからだ。でも、俺の価値観を豹変させた少女は、もう近くにいない。
俺が生きているうちは永久にたどり着けないほどの遠くへ行ってしまった。
「……はは」
つい、つまらない思索に笑いが込み上げた。
空を眺めながら、俺はそんなどうしようもないことを考えている。学校の屋上なんて場所は、空を見上げるのにうってつけの場所だと思う。いつも始業ベルが鳴るまでは、ここにいようと思っていた。騒がしい教室でじっとしているよりは、この狭い場所に寝転がっているほうが何倍もましだということに気づいたから、よくここへ足を運ぶ。
始業ベルはとうの昔に鳴っていた気もする。けれど、よく覚えていない。左手首に巻かれた腕時計を見ると、授業開始から二十分が経過しようとしていた。
……そろそろ戻るか。
「よっ――と」
階段室の上へと上がるために備えつけられた梯子を使わず、飛び降りた。下まで二メートル強。それほど苦もなく着地する。
「……はあ」
今日もまた、あまり新鮮味のない一日が始まる――その現実に対する嫌気がため息という形で、俺の中から飛び出した。
屋上と校内を結ぶ重い扉を開けた。校舎の中に入ると、外に比べていくらか涼しい。季節も気候もいいから、いまが一年でいちばん過ごしやすい時期だろう。
夏になったら陽射しが強すぎて、あの特等席にはいれなくなる。それなら、どこでさぼろうか。そういえば、去年の夏はどうしてたっけ。
そんなことを真剣に悩みながら、階段を下りる。教室に早くたどり着きたくないからなるべくゆっくりと――いや、でも早く行かないと欠席扱いになるから急いだほうがいいのか?
教師たちから見たらかなり迷惑な葛藤をしながら、一年生が授業を受けているはずの四階を通り過ぎた。