第十一章 10

 わたしの腕の中で慟哭する月城くん。そんな彼の姿に、わたしは既視感を覚えていた。
 放課後の屋上。月城くんに追い詰められ、泣き崩れたわたし。あのとき、わたしは天宮くんの胸でいつまでも慟哭していた。
 濡れた服の上から伝わってくる、月城くんの体温が愛おしい。いつまでもこのまま抱き合っていたいと、切実に思った。彼の気が済むまで、わたしはこうしていようと決めた。
 ――それからどれくらいの時間が経過しただろう。
 月城くんの嗚咽がやがて収まり、わたしの胸から顔を上げた。
 目と目が合う。月城くんの瞳は、すべての迷いや苦しみを涙と一緒に洗い流したような、清浄な光をたたえていた。
 もう、彼は大丈夫。絶対に立ち直れる――そう確信させるほどの強さを感じた。
 それから先、言葉はもういらなかった。お互いの顔が近づいていき、やがて唇と唇が重なる。
 意思が通じ合った最初のキス。
 それは、しょっぱい塩味だった。





光紡ぐ神の旋律 ~ Melodies of Memories ~

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