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第三幕 第三場

2020 4/01

 前場からの入れ替わりで、舞台上後方が照明に照らされる。
 テケスタ事務所には史郎と西園寺が板付きの状態。

西園寺「そんなのは無理だ!」

史郎「無理じゃないよ! やってみないとわからないだろ」

西園寺「無理に決まってる! 真城家の警備をなめるな!」

史郎「だから、やってみないとわからないって!」

西園寺「ふざけるのもいい加減にしろ。俺はもう真城家から解雇通告を受けた身だ。今まで俺が使っていたパスも使えないだろ。潜入するのは不可能だ」

史郎「だったら、またハルをハッキングすれば」

西園寺「無理だ。ハルは常に進化しているんだ。もう同じ手は通用しない」

 龍一と隼人登場。

龍一「なんだ、騒がしいな」

西園寺「おい、あんたリーダーだろ。このバカに言ってやってくれ」

龍一「なにを?」

西園寺「こいつ、もう一度真城家に忍び込んで、小夜子様を誘拐しようとか言ってるんだ!」

龍一「なに? どういうことだ史郎」

史郎「だってさ、その人がまた小夜子ちゃんに会いたいって言うから」

西園寺「た、たしかに言ったが」

龍一「史郎。それはもうできない相談だ」

史郎「どうして!」

龍一「俺たちは任務に失敗した。だからもう、真城家に関わる理由もなくなった」

史郎「どうしてそんなこと言うの!」

龍一「落ち着いて考えてみろ。俺たちが真城家に関わる理由は、もうどこにもない。真城家をクビになって、小夜子さんと離ればなれになった西園寺さんは不憫だと思う。けど、冷たい言い方をするなら、それはもう俺たちとは関係のない話だ」

西園寺「貴様……!」

史郎「ひどいよ龍ちゃん! そんなこと言うなんて見損なった! ねえ、隼人ちゃんはそんなこと言わないよね?」

隼人「残念だけど龍一の言うとおりだと思う」

史郎「そんな隼人ちゃんまで! もういいよ、わかった。俺ひとりで小夜子ちゃんのところに行く!」

龍一「史郎! 感情で動くな!」

隼人「俺だって小夜子ちゃんに会いたいけど我慢してるんだよ!」

史郎「うるさい! もうテケスタなんか辞めてやる!」

 史郎退場。

龍一「隼人! 史郎を追ってくれ!」

隼人「……やだ」

龍一「は?」

隼人「もうこんなのはやだ! 俺だって辞めてやる!」

龍一「隼人! おまえまで感情的になるな! さっき東郷さんから言われたこと忘れたのか!」

 佐倉登場。

佐倉「ちょっとなにもめてるの? こんな大変なときに」

龍一「こっちも大変なんですよ」

佐倉「どういうこと? ちょうど今、怖い顔した史郎くんとすれ違ったわよ」

龍一「だからですね」

佐倉「そんなことよりも大変なの! 小夜子さんが」

西園寺「小夜子様がどうかしたのか?」

佐倉「地下の部屋に閉じ込められたって」

西園寺「地下? シェルターのことか?」

隼人「そんなものあるの?」

佐倉「ええ。真城秋彦の意向で、彼女は今後、そこに閉じ込められて生活するそうよ」

西園寺「秋彦様が……くそっ、あの人ならやりかねないか」

龍一「俺たちのせいだ。俺たちが小夜子さんを誘拐しただけじゃなくて、よりにもよって奪還なんかされるから」

西園寺「そうだ! 全部おまえらのせいだ! いったいどうして小夜子様がこんな目にあわないといけないんだ!」

佐倉「落ち着いて」

西園寺「これが落ち着いていられるか! あんた上司だろ? どうやって責任取るつもりだ!」

佐倉「だから落ち着いてください! 大変なのはそれだけじゃないの!」

龍一「どういうことですか?」

佐倉「東郷さんと藤枝さんが、小夜子さんを殺害する方向で動き出した」

 一同、どよめく。

龍一「どういうことですか!」

佐倉「証人保護プログラムの実行は、現実的に不可能。だったらもう、結婚を阻止するためには本人を殺すしかない」

隼人「そんな、横暴だ!」

西園寺「おい、その東郷と藤枝って誰だ!」

佐倉「真城の屋敷ではこう呼ばれていたわね。田中と鈴木」

西園寺「ま、まさかあのふたりが?」

龍一「彼らは凄腕の暗殺者です。特に東郷さんの実力はとんでもない」

西園寺「そんな……小夜子様!」

佐倉「待って! どこに行くつもり!」

西園寺「決まっているだろ! 小夜子様を助けに行く!」

佐倉「無茶言わないで! あなたはもう真城家の人間じゃないのよ。たとえ小夜子さんが殺されると言いながら駆け込んだとしても、信じてもらえると思って?」

西園寺「やってみないとわからないだろ!」

龍一「佐倉さん」

 龍一、佐倉に詰め寄る。

佐倉「ちょっ、龍一くん!」

龍一「俺たちのミスのせいで、小夜子さんは殺されるはめになったんですよね?」

佐倉「あまり言いたくないけど、そういうことよ」

龍一「隼人! 今すぐ史郎を呼んでこい!」

隼人「え?」

龍一「いいから早く!」

隼人「わ、わかったよ」

 隼人退場。

佐倉「龍一くん、どうするつもり?」

龍一「佐倉さんは俺たちの信念を知っているはずだ。俺たちテケスタはむやみに人を傷つけない。だから今まで、人を直接的に傷つけるような任務は受けなかった」

佐倉「それがなに」

龍一「でも今回、その信念がねじ曲がるかもしれない。自分たちのせいで!」

佐倉「それは……仕方がなかったのよ」

龍一「そんなの理由になるか! もう決めた。テケスタはこれから小夜子さんを助けに行く!」

佐倉「龍一くん!」

西園寺「おい、あんたさっき、それは無理な相談だと自分で言ってなかったか?」

龍一「言ったさ。でも、小夜子さんが死ぬのはごめんだ! あんな素敵な人が不幸に死んでいいわけない!」

西園寺「当たり前だ!」

 佐倉、龍一を引っぱたく。

龍一「さ、佐倉さん?」

佐倉「やっぱりそう言うと思った」

龍一「え?」

佐倉「あなたたちが素直に認めるわけないものね。そんなの最初からわかってたわ」

龍一「じゃあ……」

佐倉「龍一くん、聞いて」

 隼人と史郎登場。

隼人「ただいま戻りました」

龍一「ちょうどよかった」

史郎「なんだよ」

龍一「そんなブスッとするな。悪かった。このとおりだ」

 龍一、頭を下げる。

史郎「え?」

龍一「今から小夜子さんを救いに行く」

史郎「ちょっと、いったいどうしたの?」

隼人「俺のいない間になにが?」

龍一「ちゃんと説明するから」

 史郎のノートパソコンから音が鳴る。

史郎「俺のパソコン? なんだよ、この忙しいときに(パソコンを開く)……あ!」

龍一「どうした?」

史郎「ハルだ! ハルから通信だ!」

龍一「なんだって?」

ハル「やあ、テケスタの諸君。ごきげんよう」

西園寺「ハル!」

ハル「西園寺啓介の声を認識。君はまだそこにいたのか?」

龍一「それよりどうして連絡をよこしたんだ? もう相まみえることはないって言ったのはそっちだろ」

ハル「たしかにそのとおりだ。けどね、小夜子様がどうしても君たちにご挨拶したいと」

隼人「挨拶?」

ハル「そう。ボクはやめたほうがいいって止めたんだけど、小夜子様がどうしてもっておっしゃるから」

龍一「どういうことだ?」

ハル「今から映像を流す」

 舞台上前面にスポットライトが照らされる。
 小夜子登場。スポットライトの下へ。

小夜子「テケスタのみなさま、小夜子です。直接ご挨拶できないことは残念ですが、ハルの力を借りて、このメッセージが届けば幸いです」

史郎「小夜子ちゃん……」

佐倉「黙って聞いて」

小夜子「このたびはわたしのことを誘拐していただいてありがとう……と言うのもおかしな話ですが、あえて言わせてください。ありがとうございました」

西園寺「こんなやつらにお礼を言うなんて」

小夜子「あなたたちと過ごしたのはほんの数時間ですが、わたしにとって、あれほど充実した時間は最近ではありませんでした。本当に……楽しかったです」

隼人「楽しかった?」

小夜子「史郎さん」

史郎「俺?」

小夜子「あなたとハルの話ができてよかった。わたしにとってハルはかけがえのない友人です。けど、ハルのことを語り合える友人は西園寺以外いませんでした。だから史郎さん、あなたと語り合えて、ハルのことを分かち合える人と出会えて、本当に嬉しかった。ありがとう」

史郎「小夜子ちゃん!」

小夜子「隼人さん……あなたはいろいろなことを知っていて、話を聞くのは楽しかったです。特にダンスの話をするときの隼人さんは楽しそうで、わたしも心が躍りました。これからもダンスを続けてください。またあなたの振り付けしたダンスを見たいです。隼人さん、本当にありがとうございました」

隼人「さ……小夜子ちゃん」

小夜子「龍一さん……あなたには、わたしのことでご迷惑をおかけしました。この場を借りてお詫びします」

龍一「迷惑だなんて……そんな」

小夜子「あなたはテケスタをまとめるリーダーだそうですね。龍一さんは静かにみんなを見守っていて、周囲に細かい気配りができる。そんな素敵な方だと思ってます。わたしは離れたところから応援することしかできませんが、それでも願ってます……がんばってください、と」

龍一「小夜子さん……」

小夜子「最後になります……テケスタのみなさま、あなたたちはわたしが久しく忘れていた、人と触れ合う楽しさ、嬉しさを思い出させていただきました。不思議な出会い方でしたが、わたしはあなたたちのことを生涯忘れません。この思い出があれば、きっとどんなつらいことがあっても乗り越えていけると確信しています……最後にもう一度言わせてください。本当にありがとうございました」

 小夜子のスポットライトが消える。
 小夜子退場。

ハル「以上だ。なにか言いたいことは?」

 一同、黙る。

佐倉「なんなのあの子……どうしてここまで他人に対して気遣いができるの?」

西園寺「それが小夜子様だ」

佐倉「……死なせない……あの子は死なせないわ!」

龍一「佐倉さん?」

佐倉「あなたの言ってたとおりよ。やっぱりあんな素敵な子を殺させるわけにはいかない!」

西園寺「あんた……いいのか?」

龍一「佐倉さん!」

史郎「ねえ、誰が殺されるの?」

隼人「まさか、小夜子ちゃん?」

史郎「そんな! どうして!」

龍一「理由はあとでちゃんと説明するから。とにかく今は小夜子さんを救い出す作戦会議だ」

西園寺「おい」

龍一「はい?」

西園寺「俺も入れろ」

龍一「は?」

西園寺「俺もおまえたちの仲間に入れろ!」

史郎「ええ! だってさっき」

西園寺「状況が変わったんだ! まさか俺に黙って見てろって言うのか!」

佐倉「真城家……真城秋彦の意向と対立することになりますよ」

西園寺「そんなことない。ハル!」

ハル「お呼びかな? ところでさっきから、小夜子様が殺されるとか不穏な言葉が聞こえているけど、いったいなんの話だ?」

龍一「言葉どおりの意味だよ。小夜子さんを殺そうとする連中がいる。俺たちはそれを阻止したい。力を貸してくれないか?」

ハル「そんなバカな」

西園寺「彼の言うことはおそらく真実だ。俺の言葉は信用できないか?」

ハル「ふむ……しかし君はもう真城家の人間じゃない」

西園寺「そんなこと言ってる場合か! ハル、おまえは小夜子様が殺されてもいいのか?」

ハル「いいわけないだろう。小夜子様の生命はボクにとって最優先で守るべきものだ」

西園寺「だったら俺の言うこと信じてくれ!」

ハル「君を信じる根拠は?」

西園寺「さっき小夜子様は俺のこと友人だと言ってくれた。大切な友人である小夜子様を救いに行く。それだけじゃ不服か?」

ハル「大切な友人。ふむ、西園寺は小夜子様を友人だと考えている。さっきの映像を分析するに、小夜子様も同様な気持ちだと立証できる。そしてボクも小夜子様の友人。ということは、小夜子様の友人はボクの友人でもある。つまり西園寺はボクの友人……友人は大切にしないといけない……ふむ、納得した。その話、乗ってあげよう」

龍一「よし」

西園寺「なあ、あんたたち」

龍一「なにか?」

西園寺「さっきは君たちにひどいことを言ってしまった。すまない」

龍一「頭を上げてください。もとはといえば俺たちがまいた種です」

西園寺「小夜子様に誓って、今はあんたたちを信頼しよう。だから頼む! 小夜子様を絶対に救い出してくれ! ほかに頼れる人はいないんだ!」

隼人「もちろん!」

史郎「任せてください!」

佐倉「それで龍一くん。どうするの?」

龍一「……俺に考えがあります」

 暗転。
 全員退場。
 暗転中に事務所のセットが片付けられる。


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