明転。
黒子たちが登場し、赤い糸を張り巡らせる。
西園寺の加入したテケスタ四人登場。
史郎は必死になってノートパソコンをいじっている。
龍一「うわっ、またか!」
隼人「なんで俺たち、こんな赤外線に縁があるんだろ」
西園寺「ごちゃごちゃ言ってないで行くぞ。小夜子様がいる地下に行くには、ここを通るしかないんだから」
隼人「ねえ、これ解除できないの?」
ハル「すまないね。それを解除するのは秋彦様の許可が必要なんだ。こればっかりはどうしようもない」
龍一「史郎にはどうにかできないのか?」
史郎、気づかない。
隼人「だめだこりゃ」
西園寺「ああもう! 時間がないんだ。さっさとくぐり抜けるぞ」
隼人「もう嫌なんだけど」
西園寺「弱音を吐くな! ほら、行くぞ!」
赤外線センサーの演出。
龍一、隼人、西園寺が順にくぐり抜ける。
龍一「史郎、あとはおまえだけだぞ!」
史郎「……よし! ハル、今新しいプログラム送信したから!」
ハル「ふむ。確認しよう」
黒子たち退場。
赤外線センサーが消える。
得意げな顔で通過する史郎。
龍一「おい、なにをしたんだ!」
史郎「え? 赤外線消したんだけど」
隼人「そんなことできるなら早く言ってよ!」
史郎「なに怒ってるの? 早く先に進もう」
史郎退場。
隼人「なんだよ」
龍一「俺たちの苦労は」
西園寺「水の泡、だな」
暗転。
龍一、隼人、西園寺退場。
入れ替わり舞台上前面が照明で照らされる。
東郷と藤枝登場。
舞台上後方では『扉』のセットが組まれる。
藤枝「東郷さん、テケスタのやつらが侵入してきたみたいっすよ」
東郷「ふん。やっと来たか」
藤枝「動きますか?」
東郷「いや、まだだ。ぎりぎりまで待つ」
藤枝「そうっすか。しかしできるんっすかね」
東郷「なにがだ?」
藤枝「ターゲットが閉じ込められてる扉、相当強固っすよ。いったいどうやって開けるんだか」
東郷「あいつらならなんとかするさ」
藤枝「なんか、妙なところであいつら信頼してるっすよね?」
東郷「はっはっは! それがどうした。後輩を信じてやるのが先輩の役目だろ。おまえは大人しく見守ってろ」
藤枝「はい」
藤枝退場。
東郷「がんばってくれよ、テケスタちゃんよ」
東郷退場。
舞台上前面、暗転。
入れ替わり舞台上後方が照明で照らされる。
空間中央には巨大な扉が置かれている。
真城家の屋敷の地下。小夜子が閉じ込められている部屋の前。
テケスタの四人登場。
龍一「ここか」
西園寺「そうだ。この扉の向こうに小夜子様がいらっしゃる」
史郎「(ノートパソコンを操作している)またロックされた! だめだこりゃ」
龍一「ここは開けられないのか?」
史郎「うん。セキュリティレベルが尋常じゃないくらい高いよ。アメリカの国防総省ペンタゴン並みだ」
ハル「史郎、君はペンタゴンにもアクセスしたことがあるのか?」
史郎「以前、腕試しにね。最終的にアクセスはできたけど、さすがの俺でも時間がかかった。念入りに準備して、二週間くらいだったかな」
ハル「ほう。それはすごい。だったらそれくらい時間を与えれば、ボクをクラッキングしてこの扉を開けることももしかしたら可能だろうね」
隼人「そんなに待ってたら小夜子ちゃん殺されちゃうよ、きっと」
龍一「ハル、小夜子様をここから連れ出さない限りはどうしようもできないんだ。なんとかならないか?」
ハル「無理だね。秋彦様から、この扉はなにがあっても開けるなと命令されている」
龍一「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ」
ハル「ボクに対する最高の命令権を有しているのが秋彦様だ。あの人が認めない限りは、ボクにもどうすることもできない」
史郎「待って。例えば、ここに閉じ込めておくことで、小夜子ちゃんに命の危険が発生したとしても、扉は開けられないの?」
ハル「もちろんその限りではない。例外規定はいくつかある」
史郎「そうか。扉を直接開けるクラッキングは難しい。でも……(ノートパソコンを操作しながら)命令の優先順位を……プロコトルをこうして……新たなプログラムを構築……よし、これでどうだ!」
ハル「新たな命令を受諾。『テケスタクエスト ~囚われのお姫様を救出せよ~』発動」
龍一「な、なんだと? おい、史郎」
史郎「まあ見てて。ハル!」
照明が薄暗くなり、扉の前にスポットライト。
四人のアンサンブルが登場する。
龍一「うわっ、なんだこいつら!」
隼人「まさか見つかった?」
ハル「違う。よく見てくれ」
史郎「ホログラムだよ」
西園寺「ほろ……なんだって?」
史郎「立体映像のことだよ。すごい……ちゃんと影まで再現されている」
ハル「ボクの演算能力をなめないでほしいね。繊細なレーザー光線を放ってあたかもその場にいるように描写する。そもそも、それには君たちそれぞれの視点や視差を計算しつつ、空間の明かりの強弱なども含めて……」
龍一「おーいハル、それでどうするつもりだ?」
ハル「君たちはまず、そのホログラムをよく見てくれ」
アンサンブルが動き出す。
ダンスを踊る。
隼人「へえ。うまいじゃん」
龍一「今のは?」
ハル「君たちに試練を与える。今のダンスを踊ってくれ」
西園寺「おいハル、どういうことだ?」
ハル「一種のゲームだ。クリアできれば、扉は開かれん」
西園寺「(史郎に)おい、ハルに変なこと吹き込むな」
龍一「ここで踊るのか」
隼人「まあでも、小夜子ちゃんのためだ!」
史郎「がんばろう!」
アンサンブルたち退場。
テケスタと西園寺が舞台上中央に並ぶ。
隼人「よし、レッツゴー!」
四人、ダンスを踊る。
龍一「はぁ……どうだ?」
ブッブーと、テレビのクイズ番組で間違えたときのような効果音が鳴る。
隼人「なんだ! ダメなのか!」
ハル「ダメダメだね」
史郎「どうして?」
ハル「全員表情が硬い。楽しそうじゃなかった。小夜子様がおっしゃってたものと違うとボクは判断する」
西園寺「おいおまえたち、小夜子様の命がかかってるんだ。本気で踊ってくれ! パーティーで見たおまえたちのほうが良かったぞ!」
隼人「簡単に言うなよ」
龍一「ハル、もう一度いいか?」
ハル「ご随意に。よし、ボクからのサービスだ。特別に音楽を流してあげよう」
音楽が流れ始める。
龍一「少しは踊りやすくなったか……よしみんな、小夜子さんに喜んでもらうつもりで踊るぞ!」
隼人「おう!」
史郎「任せろ!」
西園寺「全力を尽くす」
再びダンス。
ダンスが終わると音楽も停止する。
龍一「ハル、どうだ?」
全員、息をのむ。
ピンポンピンポーン! とクイズ番組で正解したときのような効果音。
史郎「やった!」
隼人「大成功!」
龍一「今のホログラム……使えるかもしれないぞ」
史郎「龍ちゃん?」
龍一「なんでもない! よしハル、扉を開けてくれ!」
ハル「ふむ――扉のロックを解除。システムオールクリア」
照明が薄くなり、
重厚な扉が開く効果音。
扉が開く。
扉の奥から小夜子が登場する。
小夜子「……西園寺?」
西園寺「小夜子様!」
小夜子「あら、どうしてみなさんが?」
隼人「話はあとだ。ここから逃げよう」
龍一「待て! 史郎、ちょっと」
史郎「なに?」
龍一「今から言うことをハルに伝えられるか?」
史郎「え?」
龍一「よしみんな、聞いてくれ」
舞台上後方、暗転。
入れ替わり舞台上前面が明転。
東郷と藤枝登場。
藤枝「東郷さん! 扉が開きました!」
東郷「さすがだな。行くぞ」
藤枝「はい!」
東郷と藤枝退場。
舞台上前面、暗転。
舞台上後方明転。
龍一「できそうか?」
ハル「また難しいことを要求してくるね。けどいいだろう。小夜子様を救うためだ」
一瞬だけ暗転する。
すぐに明転。
龍一「よし」
小夜子「あ、あの?」
龍一「慌てないで。大丈夫だから」
隼人「小夜子ちゃん、説明はあとでするから、今は俺たちに着いてきてくれるかい?」
小夜子「わかりました」
龍一「よし、行くぞ!」
東郷、藤枝登場。
東郷「そうはいかねえな」
史郎「東郷さん!」
東郷「ご苦労だったな、テケスタの諸君。ターゲットを扉の外に出してくれて。これで殺しやすくなったぜ」
隼人「ま、まさか、最初からこれを狙って?」
藤枝「そうだ」
史郎「そんな!」
東郷「残念だが、年貢の納め時だ。ターゲットを引き渡せ」
東郷、銃を取り出す。
龍一「東郷さん、悪いがそれはできない」
東郷「いいのか? だったらここでターゲットを殺すぞ。家の中で殺すのは不憫だから、せっかくどこか別の場所で殺そうと思ってたんだぜ。俺たちの情け、踏みにじるつもりか?」
藤枝「おい隼人、どういうつもりだ? こりゃ」
隼人「俺は小夜子さんを守りたい。ただそれだけです」
藤枝「結局自分の感情を優先させるんか……てめえも成長しねえな」
隼人「後悔なんかしてない!」
藤枝「そうか。でもすぐに後悔することになるぜ!」
東郷「真城小夜子!」
小夜子「は……はい」
東郷「あんたが大人しく死ねば、ここにいるやつらの命は保証する。だが、断ればどうなるか知らないぞ」
史郎「卑怯だ!」
東郷「黙れ史郎。それが俺たちの仕事なんだよ。なめるんじゃねえ!」
史郎「くそっ……」
龍一「……東郷さん」
東郷「なんだ、その子を差し出す気になったか?」
龍一「違いますよ。俺たちがなにも手を打ってなかったと思いますか?」
東郷「あん?」
龍一「ハル、今だ!」
突如暗転。
照明が点滅し、タイミングを合わせて龍一、史郎、小夜子が退場する。
三人が消えたような演出。
明転。
東郷「なんだ?」
藤枝「ああっ、ターゲットがいない!」
東郷「あん?」
隼人「ふふ、もう遅い! 実はおまえらが来る前に逃げたんだよ!」
東郷「なんだと?」
藤枝「てめえら!」
四人入り交じった乱闘。
そのながれで全員退場する。
しばらくすると扉が開く。
龍一、史郎、小夜子登場。
史郎「すごいよ龍ちゃん! ほんとにホログラム作戦うまくいった!」
龍一「ああ。だけど無駄話してる場合じゃない。隼人たちが東郷さん足止めしてる間に、早く逃げよう」
史郎「うん! さあ、小夜子ちゃん」
小夜子「は、はい」
史郎「怖がらなくて大丈夫だよ。小夜子ちゃんは俺が守る!」
龍一「よし、行くぞ!」
全員退場。
暗転。