Alive & Brave 10 – セイラ

 ファンタジーでありながら、現代的なエッセンスを盛り込んだ独特の世界観。リアリティよりもテーマやストーリー性を重視した物語だった。
 音楽や小説などの創作行為が徹底的に禁止された帝国が舞台。その国の隣にはかつて、芸術活動をなによりも尊んだ王国が存在していた。しかし10年前の戦争で帝国が侵攻し、その王国は滅亡。そのときの大革命により、帝国全土で芸術活動が禁止された。
 帝国と比肩する大国がもうひとつあった。共和国と呼ばれるその国は、帝国を吸収しようとずっと前から画策していた。
 登場人物たちはほとんどが帝国の住民だった。役柄はそれぞれの特性をモチーフにしている。
 美緒たちは「The Wold End」そのままのガールズバンド。帝国の圧政のせいで、思うように歌えないのが悩みだった。
 椿姫は役者を夢見る少女だが、いまの帝国では夢を叶えることができない。
 紗夜華は作家役。作品はそれなりにおもしろいが、作品を発表できる場がない。さらに性格が悪すぎて、誰からも見放されてしまったという自虐を込めている。凜いわく、「自分で書いた作品に『自分の分身』を登場させる恥ずかしさを紛らわせるための、一種のメタファー」と、実に興味深い考察をしていた。
 悠はお姫さま――帝国の皇女役だ。過去に一度だけ会った亡き王国の王子に恋い焦がれ、さらに帝国の行く末を案じている優しい姫君。ピアノの腕は一級品で、その容姿と相まって誰の目にもとまるのは悠本人と一緒。
 真奈海は皇女のお世話役のメイド。器用でなんでもできるが、元気すぎて口うるさくやかましいのが玉にきず。
 光太は皇女を守る親衛騎士のひとりだが、間抜けですこぶる弱い。凜が「へっぽこ騎士」と呼んでそれが定着し、本当の役名がどこかに忘れ去られていた。
 凜は亡き王国の王子。性格はひねくれ者で、祖国を滅ぼされた恨みから帝国をひどく恨んでいる。
 惺はヴァイオリンを巧みに操る道化師。顔半分が仮面で隠れて見えない。敵なのか味方なのか不明なまま、舞台を引っかきまわすまさに道化師だ。台詞はなく、身振りやパントマイムですべてを表現する。この表現方法は斬新で、惺の表現力じゃないと演じきれないだろう。
 わたしはこの物語の中における悪役。かつて共和国の暗殺者として暗躍していたが、それに嫌気が差して帝国へ亡命してくる。しかし身についた悪の感情は捨てきれず、登場人物たちを悪い意味で翻弄していく。
 紗夜華がわたしの正体を知るはずがないのにこの設定と配役。台本をはじめて読んだとき、つい笑ってしまった。イメージで書いたのだろうが、やはり紗夜華のアイデアとセンスには光るものがある。ちなみにわたしの衣装は、なぜか水着のように露出度の高い過激なもの。はじめての衣装合わせのとき、光太が「特撮に出てくる敵の女幹部だ!」と興奮しながら称していた。


 オープニングのダンスは必見だ。美緒が作曲し、「The World End」が演奏する躍動感あふれる楽曲に合わせて、登場人物たちがめまぐるしく動きまわり、踊る。これから始まる物語へいざない、引き込んでいく。
 最初は酔っ払いの千鳥足にしか見えなかった光太でも、みんなと一緒ならなんとか見られるくらいには踊れるようになっていた。「痛いのは生きてる証拠」と惺から叱咤されつつ、逃げずにダンスレッスンを続けた証左だ。
 オープニングダンスの最後のほう、道化師の惺がソロで踊る場面。
 舞台上を縦横無尽に駆けめぐる――しなやかな跳躍――見事な回転――学生レベルのダンスなどはるか足もとに見据えた極上のパフォーマンス。
 観客が沸かないはずがなかった。
 オープニングが終わると、いよいよ本編が始まる。


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