台詞の言い方なんかどうでもいいんだ。
演技の拙いうまいも、そこまで関係ない。
ましてや容姿なんて、重要でもなんでもない。悠のように容姿も存在感もすべて備わっていたら、そりゃ映える。でも光太みたいに演技が下手でも、容姿がふつうでも目立つことはできる。へっぽこ騎士が全力で馬鹿なことやらかすたびに、観客は笑いに包まれていた。
一生懸命だった。
光太だけでなく、みんなが。
綾瀬さんや奈々たち、そして柊さんは、ある意味等身大の悩みを台詞に乗せて、心から叫んでいた。
小日向さんも、いままでずっと抑制されていた思いの丈を込めて、全身全霊で演じている。小日向さんの演技は圧巻で、時折観客の視線をすべて集めていた。
舞台上に置かれたグランドピアノを、悠は弾いた。劇中では寂しさを紛らわすために弾いていた、という設定。その旋律は切なくて、これだけでも観客を満員にできるレベルだ。
鍵盤の上で指を踊らせる悠は切なそうで――
でも、どこか幸せそうだった。
ピアノの旋律に、いつの間にかヴァイオリンの甲高い音が混ざってくる。そこで道化師が登場。やがてメイドとへっぽこ騎士も交えた騒動が始まる。それはくだらなくて馬鹿ばかしいけど、何度見てもおもしろい。
セイラがいつか言っていた。どんなことでも、全力でやり遂げようとする姿は美しい、と。
みんなが一丸となって舞台を完成させようとしている。舞台は生き物だと、小日向さんが言っていた。その意味が本番になってやっとわかった気がする。
この俺ですら周囲の熱に当てられて、全力で役になろうと務めた。一心不乱に役になりきる。
ああ、そうなんだ――
何度も何度も何度も、同じ台詞を言い合って稽古する。役者さんはどうしてそんな面倒なことを日常的にできるのか、不思議でならなかった。
いまなら少しわかる気がする。
誰にでもある「伝えたい」という気持ち。
魂の奥底からあふれ出る、熾烈な感情。
魂の輝きを、どうしても伝えたいんだ。
演技を通じて、「人間」になりたいんだ。
じゃあ、俺は?
魂に輝きのない、むしろブラックホールみたいにどんどん光を吸収してしまう俺は、舞台に立つ権利なんてあるのだろうか。