見せ場はダンスや歌だけではない。
中盤以降、謎の存在である黒衣の騎士が登場する。目元まで覆った漆黒の兜をかぶり、道化師と同じく顔の全容が見えない。台詞は少ないのに重厚な存在感。悪役のわたしと対峙する役目だ。
黒衣の騎士は長剣。わたしは大鎌と斧のシルエットを合わせたかのような長柄武器。
お互いが武器を構える。やがて音もなく疾走、激突――
激しく打ち合う剣戟。もちろん模造品だが、本物のような質感がある。
目にもとまらぬ速さで打ち合いながら、舞台上を駆けめぐる。
観客の息をのむ気配。
殺陣という概念を超越した立ちまわりが可能なのは、わたしと「彼」の身体能力を惜しむことなく発揮しているからだ。
途中で凜の役である王子が参加する。最初は黒衣の騎士側についているが、わたしにそそのかされて裏切るというストーリーだ。
凜はわたしたちの動きに、苦もなくついてきている。体幹が安定していて、動きの切れがすさまじい。凜の根底に武術の基礎があることは疑いなく、そして凜はそれをもう隠すような真似はしなかった。
凜の持っていた槍が突き飛ばされ、膝をつく。
わたしは王子に甘言を弄する。帝国への恨みを捨てきれない王子はとうとう、激しく葛藤しながらも悪に屈してしまった。さながら、パルパティーンに唆されてダークサイドに堕ちるアナキン・スカイウォーカー。
このときの凜の演技は、演技とは思えないほど真に迫ってくるものがあった。
いつか凜が言っていた。
この役は、まさに俺そのものだね、と。