全身に痛みを感じながら、光太は目覚めた。
「…………?」
疑問を覚える。自転車に乗っていたはずなのに、なぜ「目覚める」必要があるんだろう、と。
「――っ!?」
周囲の光景に、言葉を失った。
住み慣れた村が、ほぼ瓦礫の山と化して壊滅していた。中学のときから愛用していた自転車は、倒木に潰されて見る影もなくぺしゃんことなっている。自分自身が下敷きになってないことが信じられない。
あちこちから、悲鳴や助けを求める声などが聞こえてくる。
「……ば……ばあちゃん……っ!?」
震える足を必死に動かしながら、光太は家へ向かった。
光太は知らない。
光太の祖母、川嶋初恵が地震発生当時、家にいないかったことを。
友達が来るのにろくなお菓子や飲み物がないことに光太が気づいたのは、セイラたちが来る予定時刻の30分ほど前。「お仏壇に供えるような古風なお菓子」は充分にあったが、さすがに同世代の友達を、それだけでもてなす勇気を光太は持ってなかった。
初恵からお小遣いをもらい、自転車に飛び乗り、光太は近所のスーパーへ向かった。往復で20分もあれば戻ってこられる。
光太が出かけた直後、初恵に近所の友人からお茶会の誘いがあった。光太の友達がわざわざ勉強を見てくれるということで、せめて出迎えて挨拶くらいはしたかった。しかし、誘ってくれた友人には深い恩があり、こちらも無碍にはできない。
迷った末、初恵はお茶会のほうに向かった。
その旨をメールで連絡したが、光太からの返事はなかった。