映像通信はすでに切れ、モニターからセイラの顔が消えて久しい。
それでも詩桜里は、ずっとその場に立ち尽くしていた。
オペレーターのひとりが、セイラとレイジはすでにICIS日本支部から消えていると伝えている。
詩桜里の返事はない。魂が抜けたように、呆然として立ち尽くしている。
……自分は間違っていたの……?
頭の中で何度も問いかける自問。
答えは、ついに見つけられなかった。
リスティも詩桜里にかける言葉を見つけられない。
時間だけが無作為に過ぎる。
「詩桜里くん」
「……フォスター捜査官?」
いつの間にか後ろに立っていた上司に、詩桜里はやっと気づいた。
「ひどい顔をしているな。美人が台無しだぞ」
「…………」
「上層部はお冠だ。詩桜里くんの責任問題にまで話が発展しているようだよ」
「そ……それは」
もちろん自覚している。取り返しのつかない失態であることを。
「だが、そんなことはどうでもいいね」
「え……?」
フォスターが声を張りあげた。
「この場にいる諸君に告げる! この事態の責任はすべて、特等捜査官であるわたしに存在している!」
「フォ、フォスター捜査官、なにを……っ!」
詩桜里の制止を、フォスターは意に介さない。
「政府の目があるから表立ってはそんなに派手なことはできない! だが、今後はセイラ捜査官の行動に、裏から支援するよう立ちまわってくれ! もう一度言おう! これはすべてわたしの責任と権限において発生する命令だ!」
「フォスター捜査官!?」
フォスターが詩桜里に振り返る。彼は清々しい表情を浮かべていた。
「上の保守的思考には前からいらついていたんだよ。今回はいい薬になる」
「し、しかしっ!?」
「ウィンズ・ガートンを知っているか?」
唐突に出てきた名前に、詩桜里は息をのんだ。
ウィンズ・ガートンとはICIS総本部に所属する最高事務官の名前だ。リスティたち事務方のトップにして、ICIS全体を統括するメンバーのひとり。詩桜里から見たらまさに雲の上の人。そしてセイラの超法規的処置を真っ先に進言した人間だと、詩桜里は聞いていた。
「彼とは古くから付き合いがあってね。先ほど連絡をとってみたんだ。今回の事態を伝えると、笑っていたよ」
「わ、笑って?」
「『日本支部の上層部は、わたしが黙らせよう。だから若い子の好きにさせなさい』ってね」
「そんなっ、どうして!?」
「思慮深い彼がそう言ったんだ。なにか理由があるんじゃないか? ……さて。わたしはその件を上に伝えてくる。伝えたとき、上の連中がどんな顔するのか楽しみだな。詩桜里くんはどうする?」
「……わたしは」
「ここで腐っているつもりかい?」
「――っ」
「きみもわたしから見たら若い子のひとりだよ。少しは無茶してみたらどうかな。なに、責任はすべてわたしに押しつけて構わないから」
「フォスター捜査官っ!」
「覚悟を決めなさい、柊捜査官。セイラくんはきみを心から信用しているし、尊敬しているし、なにより愛している。それに応えられるのは、きみだけだ」
「は、はい!」
詩桜里の覚悟は決まった。