傾いたまま氷づけになったアルゲンタヴィスの機内。
桜庭はスマートフォンを耳に当てていた。
『桜庭くんか!? 無事なのか? いったいなにがどうなっているんだ! 映像が真っ白でなにも見えん!』
電話の相手は総理だ。
首相官邸にリアルタイムで配信しているカメラ映像。カメラは複数の機体や車両に備えつけられていたが、いまは氷にまみれてどれもその役割をまっとうできてない。
「総理、いますぐ自衛隊に撤退命令を出してください」
『なんだと!? 真城惺の確保は!?』
「失敗です。……失敗? 話はそんな簡単じゃない! 不可能だ!」
『さ、桜庭くん!? いや、たしかに真城惺の告白は聞いていたが、その場しのぎの嘘なのではないかね!? いくらなんでも都合がよすぎるだろう!』
「彼の言葉が嘘であるのか誠であるのか、そんなことはもはやどうでもいい! この状況を見てわからないのですかっ! ……彼は……真城惺の力には……我々は……まるで太刀打ちできない……っ」
『じ、自衛隊が負けるというのか!? 未成年の個人に!?』
「もう負けた、というのが正しい。――総理。自衛隊は負けました。完敗です。真城惺という個人に、自衛隊という組織は脆くも敗れ去りました。あれはもう、人が相手にしていいレベルじゃない!」
絶叫する総理をなんとか説得し、桜庭はスマートフォンをしまう――ポケットに入れようとしたところで、彼はそれを床に叩きつけた。
搭乗している自衛隊員たちが、桜庭の思い詰める表情を見て背筋を凍らせる。
「はは……ははははははっ!」
恐怖を追い越し、絶望を通り過ぎ、最後にたどり着いた場所で、桜庭は笑った。
ただ、凄絶に笑うしかなかった。
「星術……あんなものが、個人の手の中にあっていいのか……はは……おかしい。なにかがおかしい。徹底的に間違っている……っ」
桜庭が天を仰いだ。
「星術とはなんだ!? なぜあんなものがこの世に存在している! 魔力――星核炉――この世界は――世界の理とは、いったいなんなんだ!?」