Extrication 13

 焚き火の放つ淡い光が、セイラの横顔を照らしていた。
 火を挟んだ向かいには惺が横になっている。近くにはレイジも地面にあぐらをかいて座っていた。
 移動を続けてやがて夜になり、セイラたちは野宿をしている。
 ふと、レイジが惺の横顔をじっと見つめていることに気づいたセイラが眉根を寄せた。
 
「なんだレイジ。まさとは思うが、欲求不満で男色に目覚めたわけでは――」
「そいつは何者だ?」
 
 厳しい視線で、セイラを見つめてきた。いつものレイジにはない、鋭利な雰囲気をまといながら。
  
「言葉が曖昧すぎる」
「俺が出会った中でダントツに星術行使能力が高いのは、おまえだと思ってたんだがな。どうやら違うらしい。順位が久しぶりに入れ替わった」
「…………」
「最初に会ったときは、ちょっと戦えて頭も切れるお坊ちゃんだと思っていた。だがいまはどうだ。世界でも有数の実力を持つ自衛隊を、1分とかからず沈黙させた。相手に発砲させずに、だ。たしか、空気中の水分を星術で凍らせた『だけ』……だったか? おまえにも同じことができるのか?」
「……どうだろうな」
「おまえはこれまで想像を絶する修羅場をくぐり抜けてきたんだろう。戦闘能力、勘の鋭さ、知識……あらゆる要素がそれを裏付けている。経験と結果だ。おまえのすべてを知っているわけではねえが、それでも『想像できる範疇』にギリギリ入るくらいには収まっている。だが、そこのイケメン坊ちゃんはどうだ」
 
 レイジの視線が再び惺に戻る。彼は惺のことを名前で呼ばない。惺は気にしてないが、セイラにとっては忌々しいことだった。
 
「まるで想像できない。こいつはなにを経験して……いや、違うな。『なにを手に入れて』、『なにを失えば』、あんな力を持てるようになるんだ? そもそもそれは人間に想像できて、耐えられるようなことなのか?」
「……さすがだな。そこまで惺の核心に迫ったやつは、いままでいなかったよ」
「おまえは知ってるのか?」
「全部知っている。この目で見てきた。……レイジなら話してもいいんじゃないかと、わたしは思う。ただし、今日はもう休めなくなるが」
 
 レイジがセイラを見据える。いつもの冗談をまとったぬるい視線ではない。たまに見せる雨龍・バルフォア・レイジという男の本気。
 
「……やめておく。きっと、聞かなきゃよかったって、全力で後悔するようなたぐいの話だろ」


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