第二章 04

「月城くんっ」
 
 携帯電話をしまったところで、背後から俺を呼ぶ声がした。振り返ると、眉間にしわを寄せた委員長の女子が立っている。
 
「なんだい? 市川さん」
 
 市川真沙美。豊かな髪を赤いリボンで結び、ポニーテールにしている。
 
「一限目、どこにいたの?」
 
 問題児を問い詰めるようなきつい口調だった……って、そのままか。
 
「屋上」
 
 気の抜けた返事。ふと、炭酸が抜けてぬるくなったコーラの味を想像した。
 
「どっ――どうしてそんなところにっ!」
 
 俺のやる気のない返事が癇に障ったのか、市川さんは声を荒げた。その姿に、たちの悪い悪戯心が芽生えた。
 
「市川さんのこと考えてた」
「え? ……えぇっ!」
 
 おもしろいくらいに頬を紅潮させ、思いっきり慌て出す。
 
「な、ななんでそそそんなことっ!?」
 
 俺は席を立ち、市川さんの顔に自分の顔を近づけた。視線が交錯する。
   
「あのさ、男子が誰もいないところで、気になる女の子のことを考えながらすることって、そんなに多くないけど……詳しく聞きたい? ちなみに十八禁だけど」
「あ――ぁ、え……と」
 
 ますます動揺していく市川さん。
 俺の顔と彼女の顔の距離が、徐々に狭まっていく。視線はお互いに外さない。それと比例して、彼女の頭にさらに血がのぼっていくのがわかった。
 けど――その中でも彼女の瞳は、真摯な輝きを忘れていなかった。
 不意に悪戯心が萎え、逆に罪悪感が生まれた。
 ……こんな純粋な子に、俺はなにをしようとしてるんだ。
 自己嫌悪に陥る。だから俺は、市川さんから即座に離れて教室の外へ向かった。
 
「あ、ちょ、ちょっと月城くんっ!」
 
 叫ぶ市川さんを無視しつつ廊下に出て、つい笑ってしまった。でも俺の自嘲は誰にも拾われることなく、休み時間で賑わっている廊下の空気に吸収されていった。
 それにしても、俺も相当ひねくれたみたいだ。昔は神童とか呼ばれて、それはそれはもてはやされていたのに。





光紡ぐ神の旋律 ~ Melodies of Memories ~

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