20

 あっという間に時間は過ぎ去っていった。
 長いようで短かった休日は終わり、僕は日常に戻る。無理やり休んだしわ寄せなのか、雪崩のように仕事がなだれ込んできた。オーナーの言っていたとおりだ。しばらく柏の支社から離れられなくなり、ホテルに寝泊まりするようになる。

 
 旅行から帰って3週間が経ったある日、さっちゃんが出ている夢を見た。彼女は例の笑いながら泣くような表情で、ずっと僕を見つめている。
 やがてさっちゃんは振り返り、ぼんやりとしながら消えていく。僕は声をかけることも追いかけることもできずに佇んでいた。
 そこで目が覚めた。カーテンの隙間から差し込む朝日がまぶしい。次に飛び込んできたのは見慣れないベージュ色の天井。いや、もうずっと同じ部屋に滞在しているのだから、そろそろ慣れてもいいのかもしれない。 
 ぼんやりとした思考で、泊まっている部屋を見まわす。枕もとのデジタル時計は午前6時を指していた。
 さっちゃんはいなかった。当然だ。彼女はいま、美夜坂の家で寝ているだろう。
 僕がいないあいだ、ナオちゃんが泊まってくれることになっている。彼女もまだ寝ているはずだ。
 
「……そろそろ帰りたいな」
 
 僕の独り言は当然誰にも拾われることなく、静かな空気の中に霧散して消えた。
 そのとき突然、スマホが鳴った。
 サイドテーブルの上で充電中だったそれを手に取ると、ディスプレイにはナオちゃんの名前が表示されていた。
 
 さっきの夢は、虫の知らせというやつだったのかもしれない。

 ナオちゃんが震える声で伝えてきた。
 さっちゃんが消えたらしい。


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