第一幕 第五場

 入れ替わりで明転。
 黒子たちが登場し、赤外線センサーとして赤い糸を張り巡らせる。
 龍一登場。

龍一「遅いな……なにやってるんだ、あいつら」

 隼人と史郎登場。

史郎「ごめん! 遅くなった!」

龍一「遅いぞ!」

隼人「東郷さんが執事を足止めしている間に、さっさとターゲットを確保しよう!」

龍一「ああ。だけど、セキュリティがどうとかさっき通信で言ってたよな?」

史郎「うん。ターゲットの部屋に行くためには、この通路を通らないといけないんだけど、まだ警備システムが作動していて」

 照明が切り替わり、赤外線センサーが映し出される。

龍一「またこれか」

隼人「やんなっちゃうよね」

龍一「解除できないんだよな?」

史郎「うん。プログラムが高度すぎて、解除するの時間かかる」

龍一「仕方ない。うまく切り抜けるぞ!」

隼人「しょうがないか」

史郎「ちくしょう」

 赤外線センサーをくぐり抜ける演出。
 苦労しながら、なんとか切り抜ける三人。
 照明がもとに戻り、黒子たち退場。

龍一「やった」

史郎「疲れた」

隼人「はあ、もうやだ、これ」

 藤枝登場。

藤枝「なにやってるんだおまえたち!」

史郎「うわっ! 見つかった!」

隼人「逃げろ!」

龍一「落ち着け。辰巳さんだよ」

藤枝「遅かったな」

隼人「もう、悪い冗談はよしてよ」

史郎「心臓止まるかと思った」

藤枝「ほら、ターゲットはこっちだ」

龍一「……あの、辰巳さん」

藤枝「あん?」

龍一「あなたはここまで簡単に入れるんですよね?」

藤枝「そりゃそうだ。IDパスを支給されてるからな。俺がここを通るときはそのパスを使う。その間は警備システムも作動しねえのよ」

龍一「ということは、最初から辰巳さんに協力してもらえば、赤外線センサーなんかくぐらなくてもよかったんじゃ」

史郎「ああっ!」

隼人「気づかなかった!」

藤枝「おう、そうだな」

龍一「そうだなって、気づいているならどうして言ってくれなかったんですか!」

藤枝「だってよ、さっき隼人が自分たちだけでなんとかしてみせるって言ってたからな」

龍一「隼人!」

藤枝「お茶でも飲んで待っててとも言ってた」

龍一「余計なことを!」

隼人「俺のせい? ちょっと待ってよ」

史郎「ああもう! 時間ないんだよ! もめるのはあとにして!」

藤枝「そうだそうだ! (通信の効果音が鳴って)お? 東郷さんだ――はい、はい――え? そうすか、わかりました」

隼人「なんだって?」

藤枝「足止めタイムオーバーだってよ。もうすぐ執事が戻ってくるぞ」

龍一「まずい!」

隼人「早く行こう!」

     
 テケスタと藤枝退場。
 暗転。
 入れ替わり舞台上前方が明転。
 小夜子の部屋。
 小夜子登場。
 あらかじめ用意された椅子に座り、読書している。
 しばらくしてから藤枝登場。

藤枝「ただいま戻りました!」

小夜子「あら、お帰りなさい」

藤枝「実はっすね小夜子様、さきほどパフォーマンスを行っていたウルトラパーフォマンス集団テケスターズのやつらが、小夜子様にご挨拶したいと」

小夜子「あら、そうなの」

藤枝「お疲れのところ申し訳ないんっすけど」

小夜子「構わないわ。通して」

藤枝「ありがとうございます! おい、おまえら」

 テケスタ登場。

小夜子「本日はまことにありがとうございました」

龍一「いえいえ、こちらこそ」

小夜子「とても楽しませていただきました。実は、あなたたちのこと気になっていたんです」

隼人「つたないダンスで申し訳ありません」

小夜子「そんなことありません。なんていうか、熱意が伝わってきました」

史郎「それは当然です! 任務ですから」

小夜子「はい?」

龍一「なんでもございません!」

小夜子「あなたたちは、いつもあのようなパフォーマンスを?」

隼人「はい! まだ無名のようなものですが、ゆくゆくは武道館での公演を目指しております!」

小夜子「まあ、そうですの。もし、そうなればお呼びください。ぜひ駆けつけますわ」

隼人「もちろん! 小夜子様なら真っ先にご招待いたします!」

藤枝「おーい、そろそろ」

龍一「そうですね。小夜子様もお疲れでしょうから、今日はゆっくりお休みください」

 龍一、睡眠薬を染みこませたハンカチで小夜子を眠らせようとする。
 しかし直前で西園寺登場。

西園寺「すいません小夜子様、遅くなりました……ん? なんだおまえら!」

史郎「まずっ」

隼人「戻ってきちゃったよ」

西園寺「おい鈴木! これはどういうことだ」

藤枝「いえ、実はかくかくしかじかで」

西園寺「なに? テケスターズが挨拶したいって? そういうことはまず俺に報告しろ!」

藤枝「すんません」

小夜子「西園寺」

西園寺「申し訳ありません小夜子様。すぐにこいつら帰らせますので」

小夜子「別に構わないわ」

西園寺「そうはいきません。小夜子様はお疲れなんですから」

龍一「もうしょうがない。おまえら、やるぞ!」

西園寺「なんだと?」

 龍一、ハンカチで小夜子を眠らす。

西園寺「なにをする!」

隼人「おっと。あんたにも眠ってもらう!」

 隼人、スプレーを取り出し西園寺に吹きかける。

隼人「ふっふっふ。辰巳のアニキからもらったこのスーパーネムルンデラックス、どうだ!」

西園寺「いい香りだ」

隼人「あれ? ……ああっ! しまった! 中身いつも使ってる香水と間違えた!」

史郎「嘘!」

龍一「アホか!」

西園寺「ブルガリだな。いい趣味してるじゃないか」

隼人「よ、よくご存じで」

西園寺「人をおちょくるのもいい加減にしろ! 鈴木、誰か呼んできてくれ!」

藤枝「わかりやした!」

 藤枝退場。

西園寺「ハル、大変だ! おい、ハル!」

史郎「無駄だよ。この部屋の警報システムは今、俺が握ってる。あんたの声はハルに届いてない」

西園寺「まさかハルをクラッキングしたのか! おまえらいったい何者だ!」

隼人「ふっ、これから死ぬ人間に名乗る名はない!」

西園寺「やる気か? いいだろう。誰か来るまで小夜子様は俺が守る!」

隼人「よし、やっちまえ龍一!」

龍一「俺かよ」

隼人「ほら、早く!」

 龍一、西園寺と対峙する。

龍一「あんたとは戦いたくなかったけど。この際仕方ないな」

 しばらく徒手空拳の戦いが行われる。

龍一「くっ……想像以上だ」

史郎「龍ちゃん押されてるよ!」

隼人「あの龍一を押すなんて、やるな」

龍一「おまえら、見てないで助けろ!」

西園寺「そうはさせるか!」

 続く応酬。

隼人「そうだ! 龍一、そいつを押さえつけて!」

龍一「よし!」

 龍一、西園寺の背後を取り、羽交い締めにする。

西園寺「くそっ、離せ!」

龍一「早くしろ隼人!」

隼人「ふっふっふ、やっと俺の秘密兵器の出番だ。中国四千年の歴史をくらえ!」

 隼人、西園寺に催眠術をかける。

西園寺「ぐっ……俺は」

隼人「よし、成功!」

西園寺「みんなこっちだ! 早く逃げるぞ!」

 西園寺退場。

史郎「え?」

龍一「隼人、なにやったんだ?」

隼人「おまえもテケスタの一員だって」

龍一「なんでそんなややこしいことするんだ! ただ眠らせればよかったじゃないか!」

隼人「ああっ! うかつだった!」

龍一「バカ! もういい、ターゲット連れてとっととずらかるぞ!」

 龍一、小夜子を抱きかかえる。

史郎「あ、龍ちゃんいいなぁ」

龍一「無駄口たたくなって……うわ、この子やわらかい!」

 テケスタと小夜子退場。
 入れ替わり東郷と藤枝登場。

藤枝「誰か連れてきたぞ……おっと、誰もいないや。遅かったか。はっはっは!」

東郷「どうやら成功したようだな」

藤枝「みたいっすね」

東郷「執事はどうした?」

藤枝「さあ? 一緒に連れてったんじゃないっすかね」

東郷「まあいい。予定とは違うが、追い出す手間を省けた」

藤枝「いよいよ俺たちの出番っすね!」

東郷「ああ……おっと、そろそろ警備システムが正常に戻るだろう。人工知能相手とはいえ、ちゃんと演技しろよ」

藤枝「わかってますって」

ハル「小夜子様、小夜子様! いらっしゃいませんか?」

東郷「ハルか? 大変だ!」

ハル「いったいどうしたんだ?」

藤枝「小夜子様が誘拐されちまった!」

ハル「なんだって?」

 完全に暗転。
 暗転中に事務所のセットが組まれる。


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