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Alive02-10

2020 5/12

『……りぃ~~んっ』
 
 電話越しに聞こえてきたのは、恨めしそうな声。
 
「お、光太じゃん。あの世にも電話ってあるんだな」
『まだ生きてるよぉっ!? でも死ぬかと思ったよぉ! 織田先生怒るとマジで怖い! ありゃ、うちのばあちゃんに匹敵するぜ!』
「自業自得だろ」
『そんなことよりも凜! 今日の案内イベントはどうなった? なにかおもしろいことでもあった!?』
「まあ……それは」
 
 かいつまんで話した。
 
『なにぃ!? 学園長代理の娘さんにして成績学年2位、才色兼備にして「紅色の小悪魔」と噂される柊紗夜華さんだとぉ!?』
「……そのラノベみたいな人物描写、なんとかならない?」
『そ、そんな重要なヒロインとのお茶会……邂逅イベントに立ち会えなかった俺って』
「モブってやつだな」
『モブ言うな! くそぉ、明日こそはぁ! 絶対にリベンジをぉっ!』
「がんばれよ、川嶋モブ太」
『おうっ! ――って、いま恐ろしい名前つけやがったなぁ!?』
「ところで、紅色の小悪魔ってどういう意味だ?」
『む? なんだ、知らないのか凜は。彼女はねえ、他人を寄せつけないオーラを常に放っているんだよ。勇気を振り絞って話しかけても、ほとんど冷たい反応しか返してこないらしい。1年のときから、クラスでも浮いていたって噂だよ』
「……へえ」
 
 今日話した感じでは、そこまで冷たい印象はなかったけど。
 しかしなんでこいつはそんなこと知っているんだろう。
 
『でも柊さんって、髪も瞳も紅くてきれいで美人じゃない? だから主に男子どもがそう呼んでるの』
「ほほう」
『あれ……? そんな柊さんからお茶会のお誘い受けたの? な、なんで!?』
 
 面倒だったから詳しく話してなかったところに、目聡く気づく光太。こいつ、こういうときだけは頭がまわる。
 
「まあ、いろいろあってね」
『もっと詳しく教えろよぉ!?』
  
 そのとき、ドアを控えめにノックする音。
 
「悠か? どうぞ」
『な、なにっ、悠さんだとっ!?』
 
 ドアが開けられ、パジャマ姿の悠が入ってきた。
 
「凜くん……あれ、電話中?」
「――風呂上がりなのか、頬が少しだけ紅潮している。いつも愛用しているピンク色のパジャマの上に、ストールのように巻かれた青色のバスタオル。しなやかな金髪はまだ濡れていて、普段は見られない色っぽさを醸し出していた」
『なん――だと!?』
「り、凜くん?」
「恥ずかしそうに、悠は自分の体を抱きしめるようにした」
『もっと詳しく!?』
「じゃあな、川嶋モブ太」
『うおおおぉぉぉぉい!? ちょっと待っ』
 
 通話終了。
 
「やあ悠。なんか用?」
「電話、いいの? 川嶋くんだったみたいだけど…………モブ太って?」
「気にしないで。こっちの話」
「そう……?」
「適当に座ったら」
 
 ローテーブルの近くに座る悠。
 
「あ、そういえばよくわたしだって気づいたね?」
「ノックの音がみんな違うんだよ。奈々はもうちょっと力強く叩く。母さんは、そもそもノックを忘れることが多い」
 
 ちなみに、父さんが俺の部屋に来ることはほとんどない。
 
「で、どうした?」
「あ、えっと……」
 
 もぞもぞと膝を抱え込む。視線はやや泳ぎ気味。……こういうときの悠はわかりやすい。
 
「今日のあいつはどうだったって?」
「べ、別に惺はどうでもいいから!」
「惺とは言ってませんが」
 
 しまったぁっ!? と、いまだかつて見たこともないほど絶句する悠。
 
「大丈夫。俺はなにも聞かなかったから」
 
 悠は両手で顔を隠したけど、耳まで真っ赤なのは隠しきれてない。ちなみに全身がぷるぷる震えている。これはこれで可愛い。光太が見たら悶え死にしそうだ。
 
「で、本題は?」 
「…………うぅ……その……そう! セイラがまた風紀を乱してないか気になって。ほらわたし、生徒会の役員だし!」
「そういうことにしておこうか」
「凜くんのいじわる。顔が笑ってる!」
「まあまあ。えーと、今日の散策はね――」
 
 今日のメインは、なんといっても柊紗夜華さんとの出会いだ。そのあたりの出来事を簡潔に話した。
 
「――柊紗夜華さん?」
「うん、そう。知ってる?」
「直接話したことはないけど、顔と名前くらいは。成績優秀者だし」
「その人がまた変わった人でね」
 
 彼女が作家志望であること。それから例のキスの件で、インタビューを受けたことを説明する。キスがきっかけって話は悠にしたくなかったけど、話さないわけにはいかない重要な部分だ。
 ……案の定というか、キスのくだりで悠の形のいい眉がピクっと反応した。
 
「インタビュー受けたんだね……ふーん」
「どう答えていたか聞きたい?」
 
 悠は一瞬迷うような気配を瞳に見せたあと、しっかりとうなずいた。
 本当は惺かセイラが直接説明したほうがいい気がするけど、それは悠の心情的にちょっと難しいだろう。
 セイラが答えていた内容を、要点だけまとめて伝える。惺とセイラの出会い、それから別れるまで。
 
「――――」
 
 悠は真剣な表情で、黙ったまま聞いていた。俺が説明し終わると、小さく一言「そう」とだけ言った。
 
「惺とセイラの関係、悠は詳しく知らなかったんだよね?」
「うん。ただ、お父さんの紹介って聞いて納得した。……そういえば、最初にセイラと話したときもそんなこと言ってったっけ」
「ねえ悠、俺からも聞きたいことがあるんだけど」
「……わたしに?」
「うん。今回の件で、俺も知らなかったことが判明したからさ。ちょっと気になって」
「答えられる範囲なら」
「惺が海外にいたのは知ってたけどさ、なんのため?」

 悠の表情が変わる。なにか哀しそうな、どこか痛そうな、そんな感じに。
 
「あら、まずいこと聞いちゃった?」
「違うの。そうじゃなくて。……でもそれは、わたしだとうまく答えられないかな。ごめんなさい」

 ここでしつこく食いつくほど俺は愚かではない。
 
「いや、いいよ。俺も不躾だった。ごめん」
「ううん……凜くん、わたし戻るね」
 
 挨拶を交したあと、悠が俺の部屋から去っていった。
 部屋を出ていくときの悠は、いつもより寂しげな背中をしていた。


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