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Alive03-1

2020 5/17

 夕食後のリビングには、まったりとした静かな時間が流れていた。
 リビングのソファに横になって、ハードカバー本の活字を追っていた。悠はすぐ近くで洗濯物をたたんでいる。奈々はキッチンで洗い物の最中だ。
 父さんと母さんはまだ店のほうにいる。明日、月曜日は定休日だから仕込みはない。けど夏に向けての新作メニューの開発に、しばらくふたりでとりかかるそうだ。毎年、季節の変わり目が近づいてくると、いつも以上に父さんたちは忙しくなる。
 ローテーブルの上に置いていたスマホが鳴った。まあLINEの着信だから、急いで確認する必要はなさそうだ。
 発売されたばかりの、好きな作家の新作。まだ読み始めてそんなに時間が経ってないけど、先の展開が気になる書き方でかなりおもしろい。
 
「凜くん、スマホ鳴ってたけどいいの?」
「どうせ真奈海か光太からだろうし」
 
 返信するのはあとで充分。
 だけどまあ、いちおう差出人くらいは確認しておこう。
 
「ほら、やっぱり光太からだ」
 
 ひょいっとスマホを悠に渡した。
 
「俺の代わりに返信しておいて。よろしくー」
「え、もう、それ無茶ぶりだよ」
 
 悠がスマホのディスプレイに目を落としたところで、視線を本に戻した。悠のことだから、どんなくだらない内容でも無難に返信してくれるだろう。ちなみに真奈海と光太相手になら、同じことを前にもやったことがある。真奈海には次の日ばれたけど、光太のアホは最後まで気づかなかったな、そういえば。
 
「…………」
「――――っ」
「…………」
「――――っっ!?」
「…………?」
 
 沈黙が気になり、ふと悠を見ると、彼女は文字どおり固まっていた。まったく微動だにしない。
 
「ゆ……悠?」
 
 まばたきすら忘れた様子で、じっとディスプレイを凝視している。
 
「洗い物終わりー……? あれ、悠ちゃん、なに見てるの?」
 
スリッパをぱたぱたさせて近づいてきた奈々の視線が、自然と悠の手もとへ吸い込まれた。
 
「――っ!?」
  
 息をのむ奈々。そしてこいつも悠と同じくフリーズ状態に。
 ……おいおい。
 なんとも嫌な予感が脳裏をかすめる。俺は本を放り出し、悠からスマホを取った。悠は手もとからスマホが取られても、まったく動かなかった。
 
「げぇっ!?」
 
 ディスプレイに表示されていた画像が目に飛び込んできた瞬間、昨今アニメや漫画でもあまり見られなくなったレトロな驚き方をしてしまった。
 
「なん――だとっ!?」
 
 ひと言で言い表すなら、鮮やかな海と空を背景に、惺とセイラが抱き合っている写真。場所はたぶん、星蹟島海浜公園にある展望台。スカイブルーのスポーツウェアに身を包んだ惺と、焦げ茶色のジャケットにカーキ色のカーゴパンツという服装のセイラ。
 セイラの私服姿は初めて見た気がする。いつもこんなボーイッシュな格好をしているのだろうか。足にはバイク乗りが履いていそうな、ふくらはぎまでをすっぽりと覆う黒いブーツ。
 ……いやいや、重要なのはそこじゃなくて!
 LINEには文章も添えてあった。

《激撮スクープ! 真○惺と転校生の熱々ハグ! このまま路上チューに発展するか!? でぇ~もぉ~、この写真は凜と俺だけのひ・み・つ(ハートマーク)。豊崎にも教えちゃだめだよ♪》

 ふつふつと沸きあがるこの感情は、光太に対する殺意だろうか。
 
「……凜くん……」
「……お兄ちゃん……」
 
 ぎぎぎ、ときしむ音が聞こえるようなぎこちない動作で、ふたりは俺を見た。悠の声は震えていて、奈々の声には泣きが混ざっている。
 
「いや、ほら、これは……えっと……」
 
 こんな状態のふたりに対して、なんて釈明すればいいんだ。そもそも釈明以前に、俺が詳しい事情を知っているわけがない。
 
「とりあえず落ち着くんだ、ふたりとも。話せばわかる」
「……惺さんとセイラ先輩……やっぱり付き合って……っ……うぇ~んっ」
「凜くん、これはいったいどういうことっ!?」
「いや、だから俺に聞かれてもっ!?」


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