Extrication 17

 神速の斬撃が、SFGのひとりを斬り裂いた。
 脇腹から赤い血が噴水のように噴き出し、相手が沈む。その血が人間のものであることに、海堂霞は不思議な感覚を覚えた。
 ……こいつらは本当に人間なのか?
 人間離れした身体能力と戦闘力は霞も一緒だが、相手も尋常じゃない力を有している。どんな相手でも数合斬り合えば実力の程度はわかるが、相手の実力は計り知れない。事実、いま冥府に送った人間も、霞にしてはとどめを刺すのに苦労した。
 強襲してきた連中がSFGであることに、霞はすでに気づいていた。
 霞はアジトの内部にいたが、凜と悠がいた区画とはだいぶ離れていた。連絡をとろうにも妨害電波のせいで通信機械が使えず、仲間たちとは散り散りになってしまっていた。
 敵の存在がなくなったのを確認しつつ、霞は周囲を見渡す。
 無数の遺体。むせかえるような血の臭気に満ちた、凄惨な光景が広がっている。
 霞が倒したSFGの死体が数人ほど。しかし、仲間の死体のほうがはるかに多い。一緒に戦っていた仲間のほとんどはすでに、SFGとの戦闘で冥府送りになっていた。
 このような緊急事態にいなくていったいどこで役に立つ気だと、鈴井と同じく、霞も斑鳩がいないことを毒づいた。彼には一級品の戦闘能力と、高度な星術行使能力がある。
 
「凜……」

 霞のつぶやきに返事をする者は、ひとりとしていない。
 SFGの狙いが真城悠なのは間違いなかった。彼女は見つかり次第、即座に捕縛されるだろう。
 だが、凜は違う。
 見つかったら、きっと凜は殺される。SFGが捕縛対象以外を見逃すなんてことはまず考えられない。煌武の屋敷から凜を連れ出した以降の2年間、徹底的な戦闘技術を仕込んだが、それでもSFGにはまるで歯が立たないだろう。しかも凜にとって実戦は久しぶりだ。
 SFGの容赦のなさと冷酷無慈悲さは、噂としては有名だった。それに比べれば自分たちはずいぶん優しいと、霞は自嘲的に笑う。
 真城悠はこの際、あきらめよう。異種化のワクチンを製造して日本政府、ひいては世界政府と取り引きをするつもりだったが、この期に及んではあまりにもリスクが大きすぎる。
 だが凜だけは、なんとしてでも生き残ってほしい。
 そんな肉親のような感情があることに、霞は再び自嘲めいた笑みを浮かべつつ、その場から去っていった。


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