惺にとって悠は、陽だまりそのものだった。
想像を絶する海外での経験を経て、日本へ帰国した惺。その疲弊しきった心を、悠は温かく包んでくれた。
だがそれはすぐ、冷たいものに変わってしまう。愛情が反転し、憎しみへと変化した。
悠がこよなく愛していた父・真城蒼一の死。そのときの真相を彼女に話すことが、どうしてもできなかった。
それが悠の反感を買い、殺気めいた感情を惺にぶつけるようになってから久しい。
袂を分かった直後、悠は星峰の家に居候してしまった。
しかしそんな過去は、いまの惺にはどうでもよかった。
悠を救いたい。
この先ずっと嫌われていてもいいから、生きていてほしい。
たとえ血がつながってなくても。
悠は、惺にとって紛れもない家族だった。
たとえ世界を敵にまわしても構わない。すべて排除してでも、惺は悠を救出することになんの躊躇もなかった。
「――――っ!」
熱量を帯びたレーザー光線が、惺のすぐ横をかすめた。焦げたにおいが鼻孔にたどり着く。レーザー光線の着弾点となった背後の木の幹は、鋭くえぐられたように焼けただれていた。
「ああもう、なんだありゃ! レーザー兵器が実用段階にあるのは知ってたが、もう実戦配備されてるなんて聞いてねえぞ!」
すぐ近くの茂みで体勢を低くし、デザートイーグルを構えながらレイジが小声で叫んだ。
「魔力をレーザーに変換して射出する、『シュテル・ブラスター』と呼ばれる兵器だろうな。わたしの星装銃も似たような原理だ」
ゾディアーク・エネルギーの技術力は、世界水準のはるか先にあると言われていた。かの社が情報を公開すれば、一気に数十年は科学技術が進歩するであろう、とも。
「悠の気配が近いんだ。こんなところでぐずぐずしている暇は――」
惺の特殊能力〈ワールド・リアライズ〉は、手の届く範囲に悠がいることを強烈に感じている。すぐ近くに、凜がいることも悟っていた。
野営していた公民館から抜け出し、築山の上、黒月夜のアジトとなっている廃工場へ向かっていた惺たち。アジト周辺は深い森に囲まれており、視界はすこぶる悪い。しかしそんな環境でも敵はすぐに自分たちを察知し、ただちに攻撃を開始してきた。
レーザー光線の弾幕の隙間に、反撃を試みるセイラとレイジ。
「くそっ、敵さんはなんでこちらの居場所がわかるんだ? こちらの攻撃はまるでかすりもしないってのに! チートかよ!」
「ぼやくなレイジ。口数が増えたのは歳のせいか?」
「うるせえっ」
「――ふたりは援護を」
惺が前に出る。
「おい、危険だっ!」
レイジが叫んだが、セイラがそれを制止してから惺に問うた。
「なにか考えが?」
うなずくと同時に、顕現させていたクォータースタッフを構え直して、惺は念じた。
クォータースタッフが限りなく白に近い翠碧色の光に包まれる。
レイジはなにか未知の存在を感じた。
空間に満ちる魔力を体内に取り込み練りあげ、それを肉体や武器にまとわせることで能力を強化する高度な戦闘技術体系――その名も、〈マーシャル・フォース〉。現代ではシディアスの騎士が真っ先に会得する戦闘技術となっている。
「ふたりはあとからついてきて」
惺が茂みの中から飛び出していく。
とたん、SFGの一斉射撃が始まった。レーザー光線の熱量は、かすっただけでも深手となって広がってしまう。だがそれをものともせず、惺は前進していく。
迫りくるレーザー光線を、〈マーシャル・フォース〉によって強化されたクォータースタッフが受け止め、偏光させる。
偏光したレーザー光線は別の方向に飛んでいき、そこに潜んでいたSFGのひとりに命中する。惺の〈ワールド・リアライズ〉相手では、最高レベルのステルス技術も役には立たない。
実弾ではほぼ不可能だった芸当だ。シュテル・ブラスターという特殊な兵器と、惺の高度な〈マーシャル・フォース〉、そして彼のたぐいまれな戦闘センスがあってはじめて可能となる戦闘技術の極致。
射出と偏光の繰り返しが、夜の森を怪しく彩っている。それはさながら、闇夜の森で行われる光のダンスを彷彿させた。
連続で聞こえてくる小さな悲鳴を、セイラとレイジは聞いた。
「……悲鳴が聞こえてくるっつーことは、相手は生きてるのか?」
茂みの隙間から様子を見ていたレイジが、おもむろにつぶやく。レーザー光線が急所に当たった場合、間違いなく即死だろう。つまり惺は、わざと急所を外すような軌道でレーザー光線を跳ね返していた。
「惺なら可能だよ」
「いやいや、さすがにシディアスの騎士でもそこまでは無理じゃねぇか!?」
「あいつの戦闘センスは宇宙レベルだ」
「……シディアスじゃなくて、ジェダイの騎士かなんかなのか?」
セイラは意味深な口調で答えた。
「どちらかと言えば、ダース・ヴェイダーにならなかったアナキン・スカイウォーカーだな」
意味がわからなくて、レイジは眉をひそめた。