Extrication 21

 まるで人の手が加えられてない森の中を、4人は駆け下りた。惺に背負われたままの凜が目覚める気配は、一向にない。
 
「数が多い……! さっき俺たちが倒した倍はいる」
 
 惺の能力はこのような場合、どんな高性能レーダーよりも優秀だ。
 
「素直に撤退してくれればよかったんだがな」
 
 と、レイジ。
 
「あいつらは目撃者を生かすなんて気の利いた真似はしない」
「そうだな。わたしたちがずいぶん優しく見える」
 
 セイラの言葉に、霞が笑いながら答える。セイラとレイジは、冗談じゃないと舌打ちした。
 
「まずい! 囲まれそうだ!」
 
 惺が声をあげた瞬間、レーザー光線が背後から飛んできた。一同は一目散に茂みや木陰に身を隠し、様子をうかがった。下手に反撃すると、居場所がばれる恐れがある。
 
「あの仮面には暗視スコープでもついているのか? 射撃が正確だ」
 
 星装銃を構えながら、セイラが言う。
 
「おい、イケメン坊ちゃん! 自衛隊相手にやった氷結の星術でも喰らわせてやれ!」
「……あれは最後の手段です。あんなのが人体に直接当たったら、最悪命を奪ってしまう」
「こんなときになに言ってんだ!」
「黙れレイジ。惺にも事情があるんだ」
 
 ちっ、と舌打ちしながら、レイジがセイラと惺を見た。なにか考えのある眼差しで。
 近くをレーザー光線が通り過ぎる。
 
「分散しよう。負傷者を抱えたままじゃ、満足に戦えないだろ」
「レイジ?」
「あー、俺がこんなこと言うのは絶対におまえのせいだからな、セイラ!」
「なんのことだ?」
「おまえたちは先に行け! ここは俺に任せろ!」
 
 セイラはきょとんとした。
 
「レイジさん、危険すぎます!」
「しゃあねえだろ。ならおまえさんは、後ろのそいつを置いていくか? 身軽になるだろ」
「くっ……」
 
 唇を噛みしめる惺。
 
「いくら俺だってあれを全滅させようなんて思っちゃいねえよ。隙を見て逃亡してやる。全力で」
「惺、ここはレイジに任せよう。行くぞ!」
 
 姿勢を低くしながら再び走り出すセイラ。惺も険しい表情をしながらも、後ろに続いた。
 ふたりの背がすぐ見えなくなるのと同時に、レイジが悔しそうに頭をかく。
 
「……セイラのやつ、ほんと躊躇なく置いていきやがったな。帰ったら覚えてろよ……んで、おまえさんは?」
 
 その場にとどまったままの霞を見て、レイジが言った。いまは同行を許しているが、彼女は敵。だからレイジはここに来るまでずっと、霞の様子をうかがっていた。もし変な行動をとるようなら、ただちに粛正すると心に決めて。
 SFGの異様な存在感が徐々に近づいてくる。レーザー光線の輝きも増してきていた。
 
「黒月夜はもう終わりだ」
「……あん?」
「わたしを残してほぼ全滅した」
「そりゃ残念だったな。まあ立場上、同情なんてしてやらないが」
「だからこの際だ。徹底的に『お礼』をしてやる」
 
 霞の瞳に宿るのは、静かな激情。
 それを見て、レイジが笑った。


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