閃光が弾けた。
惺とセイラが目を開ける。
目の前に凜がいた。
力なく座り込み、膝を抱えてうつむいている。絶望や諦観が、凜の全身から発せられていた。
「正気じゃないのか? わたしと同じような状況か」
セイラと違っておとなしいのは凜らしいと、惺はふと思った。
セイラが凜に近づく。
「…………セイラ?」
顔を上げる凜は、涙で濡れていた。瞳にたたえられているのは、人間と「自分」に対する圧倒的な失望。
「ひどい顔をしているな。凜、歯を食いしばれ」
手を振り上げたセイラを、惺が止めた。
「ここは俺に任せて」
セイラと立ち位置を交換し、惺は凜の頭に手を置く。
「……惺」
「凜。助けに来た」
凜は惺の手を振り払った。
「助け……助けに……? なんで……どうしてわたしなんか……」
「凜」
「どうしていまになって助けるの? 遅いよ……はじめて犯されたとき、すごく痛かったっ! 心も体も! ねえなんで? 惺もセイラも、あんな力があるのに、どうしてあのとき助けてくれなかったの!?」
「……すまない」
それは惺が謝ることではない。しかしそれでも謝らずにはいられなかった。
「でも凜。おまえはもうひとりじゃない。俺もセイラも、凜のそばにいる。これから先、凜に災難や危害が降り注ぐようなら、全力で救うことを誓う」
「そんな陳腐な言葉はいらない! もう手遅れだ!」
「手遅れなんかじゃないさ」
「わたしは……なにもできない……わたしは弱い……弱い……弱い弱い弱い弱い弱いっ! 見返りもなにもない! わたしにはもう、なにも残されてない!」
惺は凜を抱きしめた。
凜は泣いた。
こぼれ落ちる涙は、絶望か歓喜か――本人ですらわからなかった。
「見返りなんか気にするな……凜とは対等な親友でありたい。だから、手を貸してくれないか?」
「……わたしが?」
「そう。凜にしか頼めないことだ」
「…………」
「これから悠を救い出す。――凜、力を貸してくれ!」
凜の瞳が、かっっと見開かれる。惺の力強い言葉が、凜の失望を払拭させた。
――凜の瞳に、光が戻った。
「目が覚めたか?」
「惺……セイラも……え、ここは?」
「詳しい説明はあとだ。さあ、立って」
凜が立ち上がる。
「惺……」
「ん?」
「どうしてほっぺた赤いの?」
「こ、細かいことは気にするな」
惺の背後で、セイラが「ふんっ」と鼻を鳴らした。
惺は簡単に事情を説明した。茫洋としたこの世界。夢とは似て非なる世界。いまいちわけがわからなかったが、凜は言われたとおり、目をつむる。
3人は悠の姿を思い浮かべた。優しさと温かさだけを集めたような極上の笑顔を添える悠の顔を、3人はまぶたの裏に創造した。
3人は久しく、そんな悠を見ていない。
それでも鮮やかに、悠の姿を思い浮かべることができた。
取り戻したい。
そして、閃光が弾けた。
◇ ◇ ◇
自分がどこにいるのか、悠はわからなかった。
しかし薄れゆく意識の中で、人ではない「なにか」が自分を拉致した連中を皆殺しにして、星核炉に引きずり込まれたところまでは覚えている。
星核炉は、どういうわけか自分を必要としているらしい。赤ん坊が母親のぬくもりを求めるような感覚。なぜかそれだけは知覚していた。
自分の肉体の感覚は、通常とは比べものにならないほど広がっている。
やがて体内に入り込んでくる惺たちの気配を察した。ところが自分の一部のはずなのに、そうじゃない「未知の存在」が、彼らを排除しようと動き出す。
悠は不確かな意識を集中させて、攻撃をやめるよう祈った。
祈りは通じた。
でも、抑え続ける余力は、もう残されてなかった。
助けに来てくれたのかな。
けど、わたしはもう――