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Prologue 02

2020 5/02

 昼食を食べ終え、部屋のリビングルームで荷物の整理をしているところにアナウンスが流れた。男性の声だ。
 
『お客さま全員にお知らせいたします。わたしは船長の岸田です。乗客の皆さまは、まことに申しわけありませんが、大至急、30分以内に、荷物をお部屋に置いたままで中央ロビーにお越しください。なお、これは船長命令であり、背いた場合は船員法により罰せられます。繰り返します――』
 
 不思議な内容のアナウンスに、セイラは顔をしかめた。
 そこに、化粧室からひょっこり出てきた詩桜里がやってくる。化粧途中なのか、ファンデーションとパフを持っていた。
 柊詩桜里。二十代後半で、ウェーブのかかった緋色の長髪とワインレッドの瞳が印象的な美女だ。セイラと同じで女性にしては背が高く、手足も長くて抜群のモデル体型を誇る。Gカップの巨乳も破壊力抜群だ。オフである今日は、ベージュのブラウスにダークグリーンのロングスカートという服装。地味すぎず、派手すぎず。可愛らしさときれいさを同居させていて、彼女のセンスのよさを証明していた。ちなみにすっぴんの状態でも実年齢より3歳は若く見られるのが自慢らしいが、それは単なる誤差ではないかとセイラは考えている。
 
「なにかしら。船長命令ですって?」
「いや、そもそも日本の船員法に、乗客を罰する項目などあったか?」
「どうだったかしら。でもさすがにこんな冗談はありえないでしょ。それに船長さんの声、なんか震えてない?」
 
 内容を繰り返す船長の声は、たしかに震えて硬質なものをはらんでいる。
 
「非常事態か」
「もうすぐ港に着くっていう段階で、どんな非常事態? まさか、ここまで来てタイタニックみたいなことはないでしょうね?」
 
 船は正常運行している。少なくともなにかにぶつかったり、火事で航行不能、などといった事態ではなさそうだ。
 
「……嫌な予感がするな」
「え、ちょっとやめてよね。あなたの予感ってよく当たるし」
「いずれにしても、中央ロビーに行くしか選択肢はないな」
 
 貴重品以外は手ぶらのまま、セイラと詩桜里は部屋を出る。
 廊下は不安げな空気に包まれていた。部屋から恐る恐る出てくる乗客たちの表情が、なおいっそう張り詰めた空気に拍車をかけている。船員たちが廊下を慌ただしく駆けまわり、客室ひとつひとつに声をかけていた。
 船員のひとりに詩桜里がなにがあったのか尋ねるが、「ロビーで船長がお話しになります」と、困惑げに答えられただけだった。
 
「知らされてないのかしらね?」
 
 船員の様子から、そのように判断する詩桜里。
 もしくは、ここでは話すことができない内容かもしれない、とセイラは考えた。
 階段を降り、廊下をまっすぐ進むと中央ロビーにたどり着いた。中央ロビーはこの船最大の空間だ。600人を超える乗員乗客が全員集まっても、まだ余りある広さを誇っている。
 アナウンスが流れてから約20分後、乗客全員が集まった。心配が先立っているのか、パニックにはなってない。
 そのあいだに船は横須賀港に入港。
 やがて、奥からマイクを持った船長が現れ、真一文字に結ばれていた口が開いた。
 
「みなさん、落ち着いて聞いてください」
 
 スピーカーから響いてくる船長の声音は硬く、緊張感をはらんでいる。乗客の多くがぐっと息をのむ。
 
「――この船は、テロリストにより占拠されました」


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