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Prologue 04

2020 5/02

『日本政府はテロには屈しない。テロリストは無条件で人質を解放するべきだ!』
 
 内閣総理大臣が記者会見で声高に叫んでいる映像が、中央ロビーに設置された大型モニターに映し出されている。
 それを見ていたテロリストが、大仰な仕草で頭を抱えた。
 
「やれやれ。禁止ワードをあそこまではっきりと口にしたのだが。日本政府はみな無能で救いようのない馬鹿なのか――人質諸君!」
 
 怯えた子犬のように、びくっと反応する人質たち。
 
「花火を見たくないか? まだ陽は落ちてないが、盛大なものを打ち上げると約束しよう!」
 
 彼が合図を送ると、モニター画面が切り替わる。いくつかに分割された外の映像。埠頭や、反対側の海面を映したリアルタイムの映像だった。船の外部にいくつかのカメラが設置されていて、それを流用したものだ。船内にいても船外の景色を楽しめるように設置されていたものだが、人質にとって、現在では外の状況を知る唯一の手段になっていた。個人が持つスマートフォンやノートパソコンのたぐいは没取され、外部とは連絡できないことも理由のひとつだ。
 埠頭には無数の警察車両や報道関係の車が立ち並び、人も多い。空には報道各局や警察のヘリコプターが飛びまわっていた。
 
「やれ」
 
 テロリストが合図した十数秒後、船からなにか小さな物体が飛んでいくのがモニター越しに見えた。
 遠巻きにモニターを凝視していたセイラが、忌々しそうに舌打ちをした。
 数秒後、巨大な爆発音が響く。一度や二度ではなく複数回。モニターでは、火柱と黒煙を巻き上げながら爆散する、複数の特殊車両を遠目に映していた。さらに別のコマでは、爆発したヘリの機体が墜落していく途中で別のヘリに衝突し、2機ともきりもみしながら海面に叩きつけられるという衝撃的な場面を映している。海中で爆発したのか、海面が盛りあがった。
 人質の大部分が悲鳴をあげ、絶望感が形をなし、水の波紋のように広がっていく。
 テロリストはカメラに向かって言った。
 
「愚かな日本政府よ。我々が本気だと言うことはこれでわかったと思う。即座に身代金を振り込めば、これ以上の犠牲は出ないと保証しよう。しかし! 我々の要求を無視するのなら、相当残念な結果になる、とここに断言する!」
 
 仲間がカメラのスイッチを切る。
 周囲は騒然とした。テロリストが本気だと知り、声を出して泣き叫ぶ人質が出始める。絶望が連鎖し広まっていくまで、そう長い時間はかからなかった。
 
「……セイラ」
 
 隣に座っていた詩桜里が、セイラに小声で話しかけた。声をあげて泣きわめく人々に囲まれ、テロリストに会話を聞かれる心配はほとんどなかった。
 
「まさかグレネードランチャーまで持ち込んでいるとはな」
 
 モニターに映った飛翔体がロケット弾であることを、セイラはすぐに見抜いていた。
 
「あれ……死人出たわよね?」
「爆発炎上した車両やヘリの中で生き残っている人間がいるのなら、見てみたいものだ。ちなみに、悪運が強いとよく言われるわたしでも、あの中にいたらさすがに無理だな」
 
 詩桜里は唇を噛みしめつつ、「……なんてこと」とつぶやいた。
 
「ねえ、こういうのはあなたの得意分野でしょ」
 
 なんとかして、と言外に含まれている。
 セイラは首を横に振った。
 
「現状では難しいな。人質が多すぎるし、なによりやつらに隙がない。この状況では動きようがない」
 
 もう少し慎重にして、ここに集まる前に身を隠せばよかったかと、ふと思う。沈没以外で考えられる船舶の非常事態は、ジャックや爆弾騒ぎなど限られてくる。しかし、船長がジャックされたと告げる前に船員たちが乗客の人数を数え、乗客リストと重ねて全員がいること確認していた。身を隠したら隠したで、テロリストに別の意味で注目されそうだったのは明白だった。
 
「……革命戦線アナ・シュテイラだったかしら。わたしの記憶だと、フォンエルディアを拠点とするテロリストグループだったわよね。たしか、最近は包囲網が強化されて、目立った活動はなかったはずだけど」
 
 フォンエルディアとは、フォンエルディア大陸全土に広がる国家の名称だ。
 ここ数年では比較的治安がよいとされるフォンエルディア大陸も、テロリストや犯罪組織は少なからず存在している。革命戦線アナ・シュテイラは20年以上前に結成され、要人誘拐や人質事件などで資金を獲得し、公共施設の爆破などの手段に訴える過激派だった。 しかしあまりに度が過ぎた活動を続けていたからか、資金繰りが悪化しているところに拠点襲撃を畳みかけ、中心メンバーの殺害や逮捕が相次いだ。そのため、ここ数年は表立った活動は報道されていなかった。
 もう少し様子を見るしかないなと、セイラは小さくつぶやいた。


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