Prologue 05

 夜を迎える前に、外部から食料と水の補充があった。今日で航海を終了する予定だった船に積まれている食料では、圧倒的に足りない。
 船員が船室から毛布を持ってきて、人質たちに配る。全員を一カ所で監視するほうが都合がいいのか、部屋に戻ることは許されなかった。
 トイレは定期的に、まとめて連れて行かれた。当然、テロリストの監視付き。女性でも男のテロリストに監視させられるのは、仕方のないことだった。テロリスト全員が白装束にガスマスクをつけていて、体格はともかく全体的な格好は均一化されているから性別は定かではない。しかしガスマスクの下から女性の声がしたことはなかった。
 配られた夕食のパンをかじりながら、セイラは思考を休めない。
 
 ――少なく見積もって25人。
 
 テロリストの総数だ。この中央ロビーには10人ほどのテロリストがいた。ここにいる人数と、外で見張りをしているであろう人数を足して導き出した。もちろんそれ以外にも、まだ見ぬテロリストが潜んでいる可能性は高い。
 
 ――そんな人数がどこから侵入した?
 
 乗客は全員、この場で人質となっている。最初から紛れ込んでいたとは考えにくかった。
 
 ――武器はいったいどうやって持ち込んだ?
 
 豪華客船とはいえ、航空機と同等くらいにセキュリティが厳しい。ましてやグレネードランチャーなんて大きくてかさばる代物は、どうカムフラージュしても持ち込めそうにはなかった。
 
 ――裏技はある。しかし……?
 
 セイラは船内に銃器を持ち込む裏技をひとつだけ知っている。だが、それを単にテロリストに過ぎない彼らが実行できるだろうか、という疑問はどうしても拭えない。
 
 ――目的は本当に金か?
 
 20億という身代金はたしかに大金だが、治安維持能力が高い日本という国で、わざわざリスクの高い犯罪行為を起こしてまで手に入れようとするだろうか。
 そもそも、身代金が支払われたにしろ支払われなかったにしろ、犯人たちはこの場からどうやって逃げ出すのだろうか。
 いろいろな要素に違和感があった。うまく言葉にできないが、今回の事件は人質籠城事件以外のなにかが含まれているのでは――セイラの直感がそう告げている。
 しかし考え続けて答えが見つかるでも、状況が打破できるわけでもない。時間が無感情に過ぎ去っていくのを、ただひたすら待つことしかできなかった。


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